一匹狼くん、 拾いました。弐
「仁、入っていい?」
両手で持っていたトレイを片手に持ち替えると、俺は寝室のドアをノックして尋ねた。
「うん」
「……ココア飲むか?」
ドアを開けて中に入ると、俺は仁がいるベッドのそばにトレイを置いた。
「今はいい」
ドアを閉めている俺を見ながら仁が言う。
「……え」
仁が甘いものいらないって言うことなんてないから、びっくりした。
「あーもう、ミカにこんなとこ見られたくなかったのに」
仁が片手で顔を覆って言う。仁は泣いていて、顔を覆っている手から、涙が伝っていた。俺は慌てて仁の隣に行った。
「俺さ、さっき実感しちゃった。多分俺、ずっと母親にああいうこと言われたかったんだなって。……母さんに、パティシエになれるんじゃないって言われてみたかったな。まぁ、もう一生無理だけど」
「……仁」
俺は仁の背中をそっと撫でた。
「ミカさ、俺の家に映画のDVDあんの知ってんだろ?」
「え? うん、それがどうかしたのか?」
急な話題転換に驚いて、戸惑った声が出た。映画のDVDがどうしたんだろう。
「あれ、本当は映画のDVDじゃなくて、母親が料理をしているところを撮ったやつなんだよ」