一匹狼くん、 拾いました。弐
「え、でもあれパッケージ映画のじゃないか?」
「……ああ、俺が持ってきたのじゃないから。俺の母さんの今の旦那の人が送ってきたんだよ。
……ただ普通に料理のDVD渡しても俺が受け取らないと思って工夫をしたんだよ。あの人俺が映画好きだったの知ってたから、おすすめの映画送ったから見てねって書かれたメッセージカードと一緒に大量のDVDを送ってきてさ、映画のかと思って中開けたら、全部料理のDVDだった。見事に騙されたよ」
「仁はそのDVD見たのか?」
「いや、見れてない。送ってくれたのはありがたいと思ってるから時々棚から出すことはあんだけど、そこまではどうしてもできなくて。……見ようとしたら身体中が震えて、手が動かなくなるんだよ。ずっとその繰り返し」
「じゃあ俺が来た時は……」
「ああ、確か……朝見ようとしたら出来なくて、DVDをしまいもしないで学校にいったら、屋上でお前に会ったんだと思う。
……あの人は俺がパティシエを目指してたのも、その夢を母親に言わずに捨てて桐谷を受験したのも知ってるからさ、記憶は曖昧だからわかんないんだけど、たぶんスイーツを作っている時のDVDがたくさんあると思うんだ。それでも俺にはそのDVDを見る勇気もなければ、捨てる勇気もないんだよ」
「仁、その……、それでもいいんじゃないか?」
「え?」
仁が顔を手で覆うのをやめて、俺を見つめてくる。
「仁は今朝、俺に言ってくれたじゃん。無理に渡さなくていいって。……それと同じで、その、無理に捨てたり開けたりしなくていいんだと思う。その人も仁が悩んでるのは知ってんだし、仁が開けてないのを責めることはないと思うから」
「……そう、かな」
仁が涙を拭いながら、今にも消えてしまいそうな声で言う。
「うん、……そうだよ」
「……ありがと。ミカがいてよかった」
仁が俺の肩によりかかっていう。俺は何も言わず、仁の頭を撫でた。