一匹狼くん、 拾いました。弐
「仁、これココア」
俺はココアを作り終わると、テーブルのそばにいた仁に手渡した。
「ん、いい香り。ミカが作ってくれることなんて滅多にないから、飲むの楽しみだ。しかもさっきっと違って出来たてだし」
ココアを受け取ると、そういって仁は嬉しそうな顔で匂いを嗅いだ。
「……ココアなんて誰が作ってもそんな味変わらないと思うけど」
仁の隣に座り込んで、俺は言った。
「いや、変わる。例えば、ココアの粉を小さじで三杯入れてくださいって言われても、人によってその一杯の量は違うだろ。ある人は五グラムかもしれないし、またある人は7グラムかもしれない。それによって、濃さが変わるんだ。その違いが分からない奴もいれば、分かる奴もいる。料理ってのは面白い、味でその人の性格が分かるから」
「え、そうなのか?」
「ああ。濃いめに作る人の中には多分、大雑把で分量とかをちゃんと測ってない人もいるんだよ。逆に薄めに作る人は、味が濃くならないよう気をつかってるから、慎重なんだ。……もちろん、これは予測で、料理の味で何もその人の性格のすべてがわかる訳じゃない。……誰かさんは料理は慎重に作るくせに、それ以外のことは雑だったしな」
誰かさんとは多方母親のことだろう。
「仁、毒親の話ばっかしてたら、幸せが逃げるぜ?」
俺と仁の間に結賀が割って入ってきていう。
「……そうだな」
結賀は仁の言葉に頷いてから、俺に氷が入ったオレンジジュースを差し出してくれた。
「ありがとう」
「おう」
俺がジュースを受け取ると、結賀は俺とテーブルを挟んで向かいの席に腰を下ろした。
「それじゃあ仁くん、いただくね」
テーブルを挟んで仁の真ん前に座っている結賀のお父さんが言う。
「はい」
「「「いただきます!!」」」
仁と結賀と結賀の父親が大きな声を上げた。
いただきますって、そんな大きな声上げて言うもんだったんだ。
虐待されてた時は、いただきますなんて言ったこともなかった。
いただきますは基本的に穏やかな家でいうものだから。
食事中でもいつ暴力振るわれるか分からないような状況にいた俺は『いただきます』なんて言うどころじゃなかった。
『今日の晩飯は抜きだ』
父さんの言葉が頭を過ぎった。
虐待の一環で、何度飯を抜かれたか。本当に虐待されてた時は穏やかとは程遠かった。
虐待されてる時からずっと心のどこかで思ってた。
自分は、一生穏やかにご飯を食べれないんじゃないかって。
友達とはご飯を穏やかに食べれても、家族とは一生穏やかに食べれないんじゃないかって。
……父さんと母さんと、家族三人で笑ってご飯食べてみたかったな。