森の奥のパティシエール
amazing dolce I
その男性はため息をつきながら歩いていた。着ているスーツのネクタイを緩め、重い足を引きずるようにして歩く。

「はあ……」

何度目かわからないため息をつく。ため息をつくたびに体に溜まり切った疲れが増すような気がした。

「お兄さん、ため息なんかついてどうしたの?」

不意に声をかけられ、男性は振り返る。そこにはエプロンのついたロリータを着た金髪の可愛らしい女の子がいた。ニコニコと男性を見つめている。

「君こそ、こんな時間まで出歩いてちゃ危ないよ。もう夜の八時近いし……。お母さんが心配するよ?」

「今日はお母さんは友達の家に行ってていないんだ。だから、私がお兄さんをお店に連れて行ってもいいってこと」

「は?お店?」

男性はまさかこんな中学生ほどの子が怪しい営業をしているのか、と疑ってしまう。女の子はニコニコ笑っていた。

「お兄さんが悩んでいるのはわかってる!だから魔法のパティシエールのグレーテルが助けてあげるね」
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