小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
「……本当に行きたいの?」

「うん。」


夜道を普段と変わらない足取りで歩く着飾った綺麗な詩乃ちゃん。
一晩中好き放題させろ、という条件を呑んだ僕は今更ホテルに行くことを拒めるわけがない。


「家じゃダメなの?」

「うん。」


単調な会話をし、ポワポワした雰囲気の詩乃ちゃんを誘導しつつ、僕は煌びやかな外装の建物の方へと進んでいく。


一晩中って言ってたし、今日は泊まる…のかな?
でも着替えは持ってきていない。
それは詩乃ちゃんも同じ。


っていうか、なんでホテルがいいんだろう?


眉間にシワを寄せて、んー、と僕は考えた。
だけど答えは見つからなくて、一人で考えてても時間の無駄だと思ったから、素直に質問してみることにした。


「……家がダメな理由教えて」

「………郁人くん、自分の部屋に閉じこもって有耶無耶にする。」


(……なるほど…)


『酒で酔わせて、詩乃ちゃんの記憶が飛んだってことで全部条件通りにコトが済みました』ってしようと思ってたのにな。
この調子だとしっかり記憶残ってそうだし、その作戦は失敗確定。



でも正直、今の僕は普通に詩乃ちゃんの好き放題にさせてあげる気満々なんだよね。



「……家にしよう」

「……逃げるの…?」

「逃げない。約束したから。」


今日は詩乃ちゃんを目一杯お祝いする日。


「本当に逃げない?」

「うん。」


疑心暗鬼な表情を浮かべていた顔が、一気に綻んで嬉しそうな表情へと変わった。


「……これは妄想…じゃない…?」


面白い発言に笑いそうになりながら、僕は酔いどれ詩乃ちゃんの赤い頬にキスをした。
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