小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
郁人くんは私の服をたくし上げてきた。
私の胸部を覆う下着が露わになると、彼は器用に片手でホックを外す。
「待っ…」
(思ったのと違うんだけど…!)
締め付けが解かれ、胸を優しく包むように撫でた後、徐々に力を入れて揉んできた。
「んん…」
「…生理終わったばっかり?」
「な…んでわかるの…?」
「めちゃくちゃ柔らかいから」
一晩中、私は郁人くんにあんなことやこんなことをしたかった。
それなのにこの状況は…。
『不本意なのはこっちです。』という気持ちをたっぷり含めた視線で訴えるように睨みつけても、郁人くんはニヤリと笑って返すだけで手を止めようとはしない。
「いじわる…」
今度はピチャっという水温が脳内に響くように耳を舐められた。ゾクゾクと背中の方から首にかけて快楽が押し寄せる。
「ぁ…んんッ…」
「ほら…すぐにトロけた顔になった…」
吐息混じりの声に、ドクンドクンと心臓が破裂しそうなくらいに跳ね上がった。
むり。むりむりむり。
抵抗なんて出来るわけがない。
気づけば私は操り人形みたいにされるがままになっていた。
「……詩乃ちゃんのこの間書いてた小説と同じことしたいんだけど…いい?」
拒絶しようなんて考えが一切ない私は、ぼうっとしながら頷く。そして頷いた後に疑問が湧き上がった。
(書いた…小説と同じことって何…?)
どうやら頭を抱えたいことに、私は考えるよりも先に身体が反応してしまうらしい。
「…じゃあ、遠慮なく…」
妄想が現実になる瞬間っていうのは、驚くほどに鳥肌が立つ。
『……この先端…舌で転がされるのと噛むの…どっちが好き…?』
「……そっそんなこと訊かないで!」
自分で書いたくせに、いざ訊かれるとものすごく恥ずかしい。
「違うじゃん。そこは『噛んで』ってヒロインがお願いするシーンでしょ?」
「……郁人くんの意地悪…」
「それとも、詩乃ちゃんは優しく舐められる方が好き?」
「………『噛んで』…」
クスッと笑う表情。絶対に私の反応を見て楽しんでいる。
不服そうな私の顔なんて見向きもしない郁人くんは、要望通り?…私の胸の頂きを甘噛みしてきた。
「ひゃぁっ…」
彼が求めているであろう反応をしてしまう自分も、小説のシーンを再現しようと盛り上がってる自分も、全部が恥ずかしい。
『今度は何して欲しい…? 自分の言葉で教えてよ…』
小説の中の世界だと、ここで『挿入してほしい』って頼む。それで熱いセックスが始まる。
「………」
その小説通りに懇願すれば、結婚式前以来の営みが始まるのに。
なのに。