小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
「嫌……。」
「……何が?」
嫌だ。
このままエッチしたくない。
「……いつもいつも僕のこと小説のネタにしてるのに……何が嫌なの…?」
「っ……だって…」
変だろうか。おかしいだろうか。
本の中のヒーローの衣玖斗じゃなくて…。
「ありのままの郁人くんじゃなきゃ嫌…」
これは正真正銘、私の本心だ。
「………」
郁人くんは目を大きくして驚いている。
私だって自分自身の心境にびっくりしてる。
「………そっか。」
「………ごめん…」
散々エッチな妄想の中でヤってたのに、今更拒絶するなんて何様って感じだよね。
自分だったらそう思う。
郁人くんはヒいたかな…?
顔を見るのが怖くて、横に逸らした。
「詩乃ちゃん……今日は辞めにしよう。」
そうなるよね。わかってた。
わかっていたけど…少しズキンと胸が痛くなる。
「………うん」
「その代わり…」
言葉を途中で止めて、郁人くんは隣にごろりと横になった。
「…今日は僕が詩乃ちゃんに添い寝します」
「気遣ってる…?」
「ううん。僕がしたくてしてる。」
嫌われてないのかな…?
ネガティブ思考のまま、彼を見つめると…。
「……なんか…嬉しそう…?」
「バレた?」
ニコニコとしている郁人くんと目があった。
「……詩乃ちゃんの妄想の中の僕に勝った気分で嬉しい。」
予想外の言葉になんて返そうか迷っていると、郁人くんは私の唇にキスをする。触れ合うだけの優しいキスに驚いてたじろぐと、身を引いた私の後頭部に触れて再び唇を重ねた。
「……ありのままの僕と…したいの?」
「……うん…」
「……じゃあ、約束しよ?」
「次の休日、エッチしよっか」
その誘いに頭の中が真っ白になって。
「うん…」
また私は頭で考えるよりも先に身体が動き、ゆっくりと私は頷いていた。