小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
頭の中はいつも
次の休日にしよう。
ということは…。
裏を返せば次の休日まで絶対にしない。
ということになる。
「………うわ…もう…」
仕事中でもちょっと気を抜けば、この間の詩乃ちゃんとのイチャイチャを思い出して悶々としてしまう今日この頃…。
「……沖崎くん、何かあった?」
「いえ!」
仕事場で私情を挟むのは間違っているし、仕事に集中しない時点で僕のポリシーに反する。
(詩乃ちゃんが可愛いから…。)
自分の集中力の無さを妻のせいにする最低な夫だなぁ、僕…。
ふぅ、と一息つくと、今度は真剣にパソコンの画面と睨めっこした。
ささっと仕事を終わらせて、詩乃ちゃんが食べたいと言っていたラタトゥイユでも作ろう。
美味しそうに食べる顔は癒しそのものだから、今日も晩ご飯作りに全力だ。
少し眉間にシワを寄せる詩乃ちゃんが見たいからズッキーニ多めに入れようかな。
苦手な食べ物でも、僕に気を遣って美味しそうに食べるから。
そこもまた愛らしい。
それから躍起になってタスクを終わらせ続け、15時頃、残業なく帰れそうと踏んだ僕はコーヒーを買いに席を立った。
(コーヒーメーカーを導入していないこと以外は不満がないんだけどなぁ)
御用達の自動販売機の前まで来て、ICカードをかざすとボタンが光る。いつも通りの缶コーヒーを買って、拾い上げている最中。
《ピピピピッ!》
(あ、当たった。)
4桁のスロットが全て9で止まると、再びボタンが光る。
よくある『数字が全部揃えばもう一本タダで貰える』という自動販売機。本当に当たるんだ。
結構買っているのに初めての経験で、少しだけ嬉しくなってどれを買うか考えあぐねていると…
「沖崎さんだ〜」
財布を持って歩いてきた後輩の平井さんが甘ったるい声で話しかけてきた。
「平井さんもコーヒー?」
「え?はい!」
「じゃあ当たったからあげる」
もう一度缶コーヒーのボタンを押して平井さんに渡す。何てことはないことだった。たまたま当たったし、たまたま後輩が目の前にいたし。
本当に僕にとっては何てことがないこと。
「わっいいんですか?」
「うん。僕、一缶で十分だし」
消化方法的に一番有意義だと思ったからあげるってだけで他意はない。
けれども…。
立ち去ろうとした僕に平井さんが声をかけてきたことで、少し厄介なことになった。
「あの!お礼に今日の夜、一緒にご飯に行きませんか…!」
あぁ、出た出た…。