小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
癒しに溺れて


非常事態だ。


身体を重ねようと約束した日の前日前夜。
私はよくわからないまま夫の腕の中にいた。


「えっと……」

「仕事疲れたから癒して」


ベッドの上で後ろから抱きしめられ、彼は鼻先を私の首元にすり寄せている。何か大変なことが仕事であったのかもしれない。とりあえず言えることとして…。


(郁人くん可愛いぃ…)


変態気質な私は息が荒くなりそうなくらいに萌えていた。


「……詩乃ちゃん、興奮してる」

「っ…バレた…」


さすが郁人くん。磨き上げた槍の先みたいに鋭い。

声のトーンからしてあまり落ち込んではいないのかもしれない。ただ疲れている様子であることは間違いがなくて、そんな夫を元気付けるのが妻の役目なら全力で果そうと私は寝返りを打った。


「えっと……ぎゅー…」


正しい方法もわからないまま、とりあえず彼の頭を胸に埋めさせるような形で抱きしめてみる。

………本当に正しい方法もわからないまま…。


「……柔らかい」

「っ…そっそういう感想は要らないから…!」


モゾモゾと顔を動かし、より一層密着させると彼はパクッと服の上から唇で私の胸の先を愛撫し始めた。


「んっ…! な、にして…」

「こういうの求めてたんだよね?」


あなたを癒すために抱きしめただけで、この位置だと頭が撫でやすいからであって…。
頭の中で山ほど浮かび上がる言い訳など、きっと彼は受け入れてくれないだろう。
いつもの優しい笑顔を浮かべて、内心ではニヤニヤしながら殊更虐めてくるに違いない。


「っ…するのは明日でしょ…?」

「最後までしないから」


らしくない。
時々垣間見える意地悪な笑顔にキュっと胸が締まる。

ん?『最後までしない』?


(途中で中断させられるってこと…!?)



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