小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
「……詩乃ちゃん、元気ない?」


唐突に投げかけられた質問にドキリとする。郁人くんの心配そうな視線と自分の視線が合致して、その顔立ちに緊張する。気づけば近くまで来ていた郁人くんの顔に再び心臓が大きく跳ねた。


「…へ…いき……」

「そう? ………今度は顔真っ赤だね…。熱あるかな?」


郁人くんの手が私の頬をなぞる。その心地よさに無意識的に眼を細めた。


「……詩乃ちゃんの、その顔可愛い」


……何その反応…。郁人くんの方が可愛い。
などと悶絶しかけると、コツンと額に軽い衝撃を感じる。


「んー…熱はなさそう。頑張りすぎ?」

「…わ……」


きっちりと締めたネクタイ、シワのない白いワイシャツ、健康的な肌の色にワックスでセットされた髪。


(わぁーー!!ご馳走様ですご馳走様です…!!)


唾液を呑み込んで漏れそうな悶え声を押し殺す。


「………詩乃ちゃん…」

「…はい…」


これはもしや……ただいまのチュー…?
胸に芽生える期待に、反射的に瞳を閉じた。
のだが……。


「晩ご飯、何がいい?」

「……………シチュー…」

「了解いたしました〜」


予想は大きく外れ、『お仕事続き頑張って』というエールを受けて、仕事で疲れているはずの郁人くんは晩ご飯作りへと台所に消えていった。


えっ…と?


『AIロボットみたい』
という感想をもつのにも理由がある。


郁人くんと結婚して3ヶ月。


ずっと彼は手を出してこない。


「……熟年夫婦ですか…?」


おかしい。新婚夫婦といえば毎晩遅くまでオトナの営みで眠れなくて、寝不足さえも愛おしいって思うものなんじゃないの…?


(…エッチ……結婚してからしてない…)


もう冷められた…?と、不安な気持ちに悩まされる毎日を過ごしている。
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