小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
《コンコンコン》
ノックを3回し、中からの郁人くんの反応を待つ。
「どうぞ」
促されるまま部屋に入ると、大好きな郁人くんの匂いが充満していた。胸いっぱいに吸い込めば、心がふわふわしたような心地よい感覚になる。
「……詩乃ちゃん、隣座って?」
「うん。」
スキンケアしたから肌はツルツル。昨日の夜にリップを塗った成果か唇はガサついてないし、気になる箇所は色々とチェックして…。
「……ガチガチだね。」
「……うぅ…」
「うん。詩乃ちゃんは元々凄くわかりやすい。」
何でもかんでも郁人くんは私のことをお見通しらしい。
相変わらず察し能力が高くて、私の余裕がないことなんてすぐにわかるくらいに冷静なんだ。
「……緊張ほぐすところから始めようか」
そう言って、郁人くんは手始めに私の頬にキスをした。
「……次…おでこ…」
《チュッ》
「…こめかみ……」
キスする場所を言ってからキスをされると、一回一回身構えてしまう。
そんな私を見て、また嬉しそうに郁人くんが笑った。それが堪らなく愛おしい。
「……髪…。……鼻…」
「唇。」
唇への口付けが一番長くて、甘く噛まれると同時に深いものへと変わっていく。
「…少し上手になったね。」
「ほんと…?」
「うん。」
長い口付けを交わしながらボタンを一つ一つ外されて簡単に服を脱がされた。唇が離れると、郁人くんは着ていた寝巻きを脱ぎ捨てる。
(……良い身体…)
引き締まった身体はとてつもなく魅力的で、とても普段、仕事しかしていない人とは思えなかった。
「……鍛えてる…?」
「ちょっとだけね」
触りたい、なんて欲求に襲われて、私は郁人くんの鎖骨付近を手でなぞった。
「んっ…くすぐったいんだけど…」
可愛い反応…。
「仕返しされる覚悟できてる?」
「え…? わっ…ぁ…」
舌が這う感覚が気持ち良くて、ぼーっとしてしまう。
放心状態のままでいると、次にピリッとした痛みが走った。
「……綺麗についた…」
初めて付けられたキスマーク。
どんな色をしているんだろう。
どんな形なんだろう。
どれくらい痕が残るんだろう。
わからないや。
「もっと…」
「……おねだり上手になったね…」
何処までも甘い夜。
甘くて甘くて狂おしいほどの愛しさがこみ上げる夜。