小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
「よっ読んだんですか!?」
2人きりで食事に出かけた日。
そこで初めて真っ直ぐに私は郁人くんの眼を見た。
柔らかい表情に優しそうな話し方。
本当に自然と、無意識のうちに私は心を開いていた。
「はい。凄く心温まる内容で感動して泣いてしまいました」
「麻耶ちゃん…勝手に……あぁ…」
「そんなに恥ずかしいんですか?」
「脳内見られてるみたいで…今だに慣れなくて…」
褒めてもらえて嬉しい。
昔から私は信じやすい性格で、それがお世辞かもなんて疑うことはしなかった。
『豚もおだてりゃ木に登る』。ことわざ通りの人間かもしれないけれど、それ以上に気持ちを込めて褒めてくれる郁人くんの言葉を全身で受け止めたいって思った。
「沖崎さんにそう言っていただけて、また一から頑張ろうと思いました」
素直な気持ち。
直接感想を貰う機会があまりなかったから、貴重なご意見ありがとうございますの精神で、一緒にご飯を食べた。
敬語を無しにして話そう、と2人で決めたは良いけど慣れるまでが擽(くすぐ)ったくて恥ずかしく感じていたのを覚えてる。
「……藍澤さんのこと、もっと知りたい」
「っ…私、そんな面白い人間では…」
物腰が低くて、自信のなさが目立つような、そんな関わり方だったなぁ。
郁人くんが『仕事ができて、凄い人』って麻耶ちゃんから聞いてたし、見た目からして爽やかな好青年って感じだから自分のことを蔑んだ話し方ばかりしてしまっていた。
そんな私に、郁人くんは言う。
「藍澤さんのことが知りたいのは僕の本音だよ。藍澤さんの自己評価は関係なしに、もっと仲良くなりたい。」
嬉しかった。
興味を抱いてくれるということは、私の小説が気に入ってもらえたということだと思っていたから。
実際のところ、恋愛的な意味だったと知るのは告白されるまで気づかなかったんだけど…。
「……まず一つ質問してもいい?」
「うん。」
「次、時間にゆとりがある日を教えて欲しい」
締め切り日以降の日程を郁人くんの要望通りに伝えると、また2人で出かけようなんて話になった。