小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
だが、そんな私に彼は言う。
「……自分のお家のお風呂なのにタオル持ち込むの?」
「……うっ…」
盲点だった。
普通は持ち込まない。いや、持ち込むタイプの人もいるかもしれないけれど、私の身の回りや生まれ育った実家では浴室でタオルを使わなかった。
「これは…!体洗うために…!」
「僕が手で洗ってあげるからコレはいらないね」
クスクスと笑みをこぼしながらヒョイっと、いとも簡単に私の体を隠していたタオルが奪い去られる。
「まっ……あぁ…」
一気に押し寄せる羞恥心に身体中が脅かされ、カッと頬に熱を帯びた。無意識に両手を胸の前でクロスさせる。でも私の腕で全身隠せるわけがなくて、どうしようもない居た堪れない感に頭を抱えたくなった。
「へぇ…。明るいところでまじまじ見たことなかったけど…」
彼は意地悪な表情をして、シャワーのヘッドを鏡に向ける。曇っていた鏡が水飛沫を受けたことで綺麗に反射し、私と郁人くんの身体を映し出した。
「っ……」
それから郁人くんは私を背後から抱きしめ、身体を隠そうと頑張っていた私の両手を片手で掴む。
そして口角を上げた鏡の中の彼と目が合った。
「ここのラインとか…綺麗だよね」
つつ…と私の横腹からお尻のラインまでをゆっくりとなぞる。
「んぅ…」
くすぐったくて目を細めた私を見て…
「…ふっ……やっぱり詩乃ちゃんって反応がエロいね」
と言いながら彼は笑う。
「身体、僕が洗ってあげる」
「むっむり…!」
「洗い合いっこ……だめ?」
耳元で囁かれると弱いのを知っててやっているから、本当に郁人くんは策士だ。
「……だめ…じゃない…」
ほら、嬉しそうな顔をしてる。
郁人くんが喜んでくれたら嬉しい。触れてほしい。気持ちよくなりたい。気持ちよくさせてあげたい。
「………ヒかないでね…」
「今更でしょ?」
その後、2人で洗い合いっこして湯船に浸かった。
何処かほっこりする香りに包まれて、何度も何度もキスをして…。
初めて一緒に入ったお風呂で、のぼせながらも愛を確かめ合ったこと。
きっとこの湯けむりの香りを嗅ぐたびに思い出すのだろう。