小説家の妻が溺愛している夫をネタにしてるのがバレまして…
溺愛の手
郁夫くんと一緒になれて幸せだ。
これを今更言うのにも理由がある。
「詩乃ちゃんの小説の『旦那様に溺愛されて困ってます』の感想がネットに…」
「なっ!!調べなくていいからぁー!!」
「なんで?褒め言葉の嵐だよ?」
きっとこの私の反応を見て楽しんでる。
郁人くんはそう言う人だ。
「『リアリティがあってより一層エッチで生々しくて美味しく頂けました』『こんな旦那さん欲しい…!読み終わった後、心がポカポカして気分が良くなる不思議な小説』」
感想を読み上げて、にっこりした表情で私のことを見るけれど…。
「良い感想もらえてよかったね。僕とのエッチ、こんな風に褒められちゃうなんて恥ずかしいけど」
「っ………」
なぜ私は夫にオトナな小説を執筆していることをバレてしまったんだろう…。
墓場まで持っていくつもりだったのに…。
最初は『ほんの出来心』だった。
初めてエッチした日から熱が冷めなくて、おかしいくらいに郁人くんを求めてしまって。
(文章にすれば少し落ち着いたから…)
隠すようにUSBに保存していたのだが…。
担当の人に、USBを貸す事がたまたまあって、たまたま中を覗かれて、たまたま小説家ネームを変えてオトナな恋愛小説家デビューを果たしてしまって早一年ほど。
処女作から大ヒットかつ重版。
(我ながら恐ろしいスピードで売れたなぁ…。)
そして郁人くんにバレて…最近はエッチの内容を題材にしてしまうこともある。
「……こんな妻…嫌だよね…」
「僕のことが好きで堪らないんだなって思う。それに…」
それに?
郁人くんの言葉の続きが気になりながらも、私は郁人くんが用意してくれたコーヒーを飲む。
緊張が胸いっぱいに広がって、私が何気ない顔を作れなくなった頃…。
「詩乃ちゃんがエッチの最中、何考えてるかわかるのが結構グッとくる」
「……へ…?」
ものすごく恥ずかしい言葉が飛んできた。
「あ、この時悦んでたんだ、とか。あ、これが好きなんだ、とか。たとえば……」
気づけばソファの隣に座っている彼の腕に閉じ込められる。耳元まで口を近づけて、息を吸った。
「耳たぶ甘噛みされてから…耳の中を舐められるの好きなんでしょ…?」
「っ……」
郁人くんはその言葉通りに実行し始めた。チリっとした電流みたいな刺激が耳たぶから全身にゾワゾワと甘く広がる。身悶えすると、次はピチャッという音とともに耳の中を犯された。
「んっ…はぁ…♡」
「きもちぃ…? もっと知ってるよ…。こうやって囁かれると、下…濡れちゃうんだよね」
今日に限ってスカートを履いている私の太ももをわざとらしくゆっくりと手のひら全体でなぞる。
「あと、焦らされるのが好き…」
「…いじわる…やっ……」
「嬉しいくせに。………可愛い」
目一杯甘やかされて、気持ちよくされて。
郁夫くんと一緒になれて幸せだ。
これを今更言うのにも理由がある。
「………郁人くんって私のこと大好きだよね」
「?」
結婚後、初めて身体を重ねた日から…
彼の溺愛の手は止まない。