受話器に愛をささやいて
扉を開いて絶句した。
叩きつける雨に視界を奪われて、既に雨宿りをしていた人物が見えなかった。
先客ありかもしれないという予想は確かにあったが、まさか彼がいるとは思わなかった。
その姿を確認して、一瞬身を引こうとしたが、頭や肩を叩きつける雨粒で私は仕方なく中に入り、ガラス扉を閉めた。
急な通り雨なのか、夏になると発生するゲリラ豪雨のせいで背中が激しく濡れてしまった。
「……びっ、くりしたぁ〜。栞里ちゃんなに、偶然?」
「うん、そうみたい……」
私は彼の顔が見れずに俯いた。
ーー栞里"ちゃん"。
四つも年下の彼にちゃん付けされるのは
未だに違和感がある。
雨宿りに立ち寄ったとある電話ボックス。
今やガラケーやスマホが主流となった街中で、電話ボックスは珍しい存在だ。
しかしながら、私は偶然ここに立ち寄ったわけではない。
勿論雨宿りも目的の一つだが、私は元々ここに用があったのだ。この電話ボックスに。
手帳型のスマホケースに挟んだメモ書きを確認し、大学からここまでの道のりを急いで駆けて来た。
ふと、彼から強い視線を感じてバチッと目が合う。
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