受話器に愛をささやいて
 ようやく正気が戻ってきた時、不意に彼の心音を感じて顔を上げる。

 彼は少し恥ずかしそうに眉を下げ、なんとも言えない複雑な表情(かお)をしていた。

 スン、と嗅覚が反応し、彼特有の匂いが鼻腔をくすぐった。

 ーーなんだろう、いい香りで安心する。

「ごめんなさい」

 私は俯いて身を引き、また彼と距離を開けた。

 ふと彼の足元に何かが落ちているのに気が付き、見慣れた白いケースから私のスマホだと理解する。

「……え、あっ!」

 慌てて鞄の外ポケットを確認して、落としたんだと思った時。

 賢人くんの手がスマホを掴んで拾い上げていた。

 落下のショックで液晶に被せていた蓋が開き、彼が「割れてないかな」と心配そうに呟いた。

 ーーあ。やだやだやだ、中見ないでっ!

 あらかじめ液晶の上に重ねて置いていたメモ書きを見て、瞬時に彼の表情が固まる。

 ーー終わった……。

 私は後ろによろけて、電話ボックスの壁に体重を預けた。

 メモ書きには平仮名で『うすいけんと』と書き、その下に合わせて六桁の数字を並べて書いていた。

「"332415"って。ここのジンクスの?」

「……っ」
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