受話器に愛をささやいて
「俺、国語は苦手でも数字は好きだからさ。こんなメモを書かなくてもソラで言えるよ」

 ーーつまり、私の名前をここで。

「実は栞里ちゃんが入って来る前に試したんだよね」

 賢人くんは恥ずかしがる様子もなく、テヘッと笑う。

 そんな彼を私は呆然と見つめていた。

 ーーだから濡れてなかったんだ。

 この豪雨に遭う前から彼はこの中にいたのだから。

 雨宿りではなく、ただ足止めを食っただけ。

「おお〜……、すげぇ」

 賢人くんがガラッと扉を開け、空を見上げた。

 ザアザアと降り続いた雨はいつの間にか止んでいて、キラリと太陽を覗かせた空には七色の虹がかかっていた。

「雨も止んだ事だし、帰ろっか?」

「……あ。うん」

 彼に続いて電話ボックスを出ると、急に左手をギュッと繋がれる。

 ーーええと、これは……?

 ファーストキスをされた直後から思考が追い付かず、手元を見てから彼を見上げる。

「フハッ、なんて顔してんの?
 俺ら今日から彼氏と彼女、……ね? 俺、栞里ちゃんのこと大好きだから」

「……えっ、あっ!」

 賢人くんの笑顔を見て、それまで鈍く落ち着いていた心臓が急に脈を早めた。
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