受話器に愛をささやいて
「栞里ちゃん、これ。スポーツタオルなんだけど、良かったら使って? こっちのはまだ使ってないから」

「えっ」

 急に目の前に差し出されたタオルと彼の顔を交互に見て、少なからず狼狽えた。

「……あ、りがとう」

 ーー私が濡れてるから、だよね?

 正直、この子がこういう行動の取れる子だとは思わなかった。

 彼から青いタオルを受けとり、とりあえず思い付く限りで雨粒を拭う。

 私の右手は依然としてスマホを握りしめていたので、拭きにくさを感じるが、私はそれを手放さなかった。

 "本来の目的"など諦めて、さっさと鞄に仕舞えば良いのに、動揺からそうできずにいる。

 電話ボックスの壁に背中を押し付けながら不自然な動作をする私を、彼は訝しんでいるかもしれない。

 恥ずかしい、とまた思った。

「……スマホ、しまわないの?」

 案の定、不自然を追求されて私は上ずった声で返事をする。

「……し、しまうよ? 今、そうしようと思ってたところ」

 動揺をひた隠しに、曖昧な手つきでそれを鞄の外ポケットに押し込んだ。

「た、タオル。また洗って返すね?」

 言いながらタオルは鞄の中に入れる。
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