受話器に愛をささやいて
 再び沈黙が降りて来る。

 いつも通り、彼の部屋で二人きりならなんて事無いのに、この狭い空間のシチュエーションだと変に意識してしまう。

 私は右肩に掛けた鞄を包み込むように、左手で右の二の腕をぎゅっと抱きしめた。

 視線はやはり、ガラス戸の向こうだ。

「そういえば栞里ちゃん、今日古典……って言ってたっけ?」

 不意に彼から話しかけられた。

「あ、うん。そうだよ。ちゃんとテキストやった?」

 いつもの調子で尋ねると、彼は首を傾げて愛想よく笑う。

「ごめん、忘れてた〜」

 悪びれる事なく、彼はテヘッと舌を出す。

 ーーやれやれ。

「キミ、先週も宿題忘れたでしょ? いい加減真面目にやらなきゃ」

「だって、国語苦手なんだもん」

「苦手だから私が家庭教師やってるんでしょ?」

「そーだけどさぁ……」

 彼は俯き、しゅんと肩を落とす。

「一人だとやる気出ないんだよね〜。やっぱ栞里ちゃんが教えてくれないと」

「なに言ってるの、定期テストは一人で受けるんだし、来年は受験もあるし。いい加減本腰入れないと!」

 彼は口をへの字に曲げて、ちぇっ、と不服そうな顔をする。
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