受話器に愛をささやいて
 彼の家庭教師を引き受けてそろそろ三か月が経つ。

 毎週金曜日の夕方、私は"カテキョ"のアルバイトで彼の家へとお邪魔する。

 今日も金曜日なので、このあと家に行く予定だ。

「そういえばさぁ」

「……今度はなに?」

「この間、翔琉に誘われてお宅の家に行ったんだけど。栞里ちゃんってアイドルのKenT(ケント)が好きなの?」

 ーーえっ!?

「なな、なんで??」

「んだって、栞里ちゃんの部屋にポスターが貼ってあったから」

 言いながら、彼は不満そうに口を尖らせた。

「いや、だから、何で私の部屋見てるの?」

「………えっと。開いてたから?」

 彼は首を傾げてさっきと同様にテヘッと笑う。

 ーーうそ、もう最悪。

 私は大仰なため息を漏らし、右手で顔を覆った。

 きっと翔琉だ。あいつが私の部屋から何かを借りて開けっ放しにしたんだ。そうとしか考えられない。

 だって私は普段から部屋の扉をちゃんと閉めるようにしている。

「ごめんね、栞里ちゃん。でも部屋綺麗だったよ、いい匂いしたし」

 ーーって、ちょっと待て。

「入ったの?」

「………うーん……。ちょこっとだけ?」
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