受話器に愛をささやいて
 ーー最悪、二連発。

 帰ったら弟をとっちめないとと変に意気込んでしまう。

 口を噤んだまましかめっ面をしていると、彼が急にスンスンと匂いを嗅ぐ仕草をした。

 ーーなに?

「ああ、そうか。この匂いだ」

「何が?」

「栞里ちゃんの部屋の匂い」

 ーーなッ!?

「イコール、栞里ちゃんの匂い」

「もう、やだ! 匂いとか嗅がないでよっ」

「いや、むりむり、不可抗力。雨に濡れたあとの密室でしょ? 充満してるんだもん、栞里ちゃんの良い匂い」

「匂いとか言わないでよ、恥ずかしいっ」

 ーーキミは犬か!

「ごめんごめん」

 ことさら壁に体をすり寄せ、私は彼との距離を開けようと無駄なあがきをする。

 雨は勢いを緩めず、未だに電話ボックスのガラス壁を叩きつけていた。

「つーか。ホント密室だよなぁ〜…雨、全然やまないし」

「……そうだね」

 ーーくぅ…っ、どうしよう、気まずい。果てしなく……。

 今さらだけど、今朝折り畳み傘を入れなかった自分を恨めしく思う。

 それにこんな不安定な天気の日に、電話ボックスの用件を優先させるべきでも無かった。

 なぜならこの場所は彼の家とは正反対なのだ。
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