受話器に愛をささやいて
 彼は高校からの帰り道でこの電話ボックスの前を通るだろうけど、私がこの道を通って彼の家に行くというのはいささか無理がある。

 大学は高校と真逆の場所に位置しているし、こっち方面に買い物をするお店なんて一つもない。コンビニすらない。

 すなわち、私がこの道を通りかかる理由が無いのだ。

 ーーううぅ。早く雨、やまないかな……?

 不安に眉を寄せてガラス戸の向こうに広がる灰色の空を見上げた時、また彼に話しかけられた。

「ところでさぁ、栞里ちゃん」

「……な、なに?」

「なんでこの電話ボックスだったの?」

「っ、えぇ!?」

「いや、雨宿りの場所。この先歩いても特別何も無い住宅街だし、俺らの高校があるだけだし」

 今一番聞かれたくない質問を投げられて、不自然に鼓動が速まった。

「な、何でって……っ。と、通りかかったから……」

 私は彼の顔をまともに見る事ができず、俯いた。

 彼は「ふぅん」と呟き、「ねぇ、知ってる?」と今度は別の話題を振ってきた。

「この電話ボックスに何かジンクスがあるんだって」

 ーードキ……ッ。

「……へぇ」
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