受話器に愛をささやいて
 恋愛ジンクスなんて馬鹿げてる。

 どうせ誰かが作った迷信に決まってる。

 そう思うのに、馬鹿みたいにこの電話ボックスのおまじないにすがりついている。

 だって直接告白なんてできるわけが無いから。

 賢人くんにとっての私は、友達の姉で、カテキョの先生で、四つも年上の大学生。

 そんなの彼から見たらオバサンだ。

 彼と私とじゃ、とりまく環境が違いすぎる。

 共学校に通う賢人くんの周りには、可愛い女子高生が沢山いる事だろう。

 カテキョの時間は目的がハッキリしているからこそ会話できるけど、それ以外は正直何を話したらいいのか分からない。

 大学生の自分を出してお姉さんぶるのも嫌だし、かと言って彼らみたいにハジける事もできない。

 恥ずかしくて俯くのが関の山で、ろくに会話すら続かない。


 再びこの空間を沈黙が満たしていた。

 強風に煽られてザアザア降り続く雨音に混ざって、賢人くんのため息が聞こえる。

「……栞里ちゃんってさ」

「え、」

「前から思ってたんだけど、あんまり俺と喋りたがらないよね」

 ーー……?
< 9 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop