俺様パイロットに独り占めされました
私が息を切らして走るのと並行して、アナウンスもかかっている。


『日本エア航空102便にて、札幌までお出での、新垣(しんがき)様。新垣博様。いらっしゃいましたら、83番ゲートにお越しください。繰り返します……』

「新垣様! あら……って、あれ? 今、シンガキって言った!?」


これだけ走り回った今になって、名前を呼び間違えていたことに気付く。
あー、私ってなんでこう、いつもいつもいつも……!


それでも、自己嫌悪に陥ってる暇はない。
何度も言うけど、飛行機の離陸が遅れることになったら――。
102便の機長の鬼の形相が、脳裏にくっきりと浮かび上がる。


「っ……」


一度頭を強く振って、鬼の残像を霧散させた。


「シンガキ様ー! 新垣様、いらっしゃいませんか!?」


東京の空の玄関口、羽田空港。
世界第五位の利用者数を誇る、名実共に巨大空港だ。


一日の旅客数は約十八万人。
国際線、国内線合わせて、飛行機の離発着は千二百回を超える。


空に飛び、空から帰ってくるたくさんの乗客たちを、毎日毎日見送り出迎える……いや、地上で捜し回る日々。
私に、憧れの空は遠い。
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