俺様パイロットに独り占めされました
自ら怒られに来たというのもあって、だいぶ開き直った感もあるけど、久遠さんの淡麗な鬼の形相を想像するだけで、心が沈む。


久遠さんは、誰もが認める優秀で将来有望な、史上最年少のエリート機長だ。
異動してすぐ、主任や他の先輩たちから、久遠さんのすごさと厳しさは聞かされていた。
『絶対に、粗相のないように』と念を押され、気合を入れすぎてぎくしゃくして、結果空回り。
私は、大事な関わりの第一歩で、やらかしてしまったのだ。


初日から早速呼び出され、『新人か』と、綺麗な顔を渋く険しく歪めて注意を受けた。
その後はかえって萎縮してしまい、特に彼のフライト便はミスを連発。
最初は口を酸っぱくしての注意だったけど、今やお咎め、理詰めでの厳しい叱責に変わっていた。


私が悪いのはわかってるし、いつもちゃんと猛省しているけど、とにかく怖い。
怒られたくなくて気負ってしまい、完全に悪循環に陥ってしまった。


ああ――。
久遠さんの壮絶に端整な怒った顔、もう二度と見たくないのに……。


恐ればかりが強くなり、本人に対する苦手意識が助長される。
それなのに、その人の帰りを自ら待ち構えているなんて複雑だ。


「はあ」と声に出して溜め息をついた時、マーシャラーを乗せた梯子車が、窓の外に駐車したのが目に入った。
着陸した飛行機を、駐機ポイントでピッタリと停止させるために、手旗信号で誘導する専門スタッフだ。
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