オオカミさんはウサギちゃんを愛でたい。

「おかえりなさい!」

 ホンモノの大地くんだあ……!

「美香ちゃん。なにしてるの」

 美香"ちゃん"だって。
 そんな呼び方、一度もしたことないのに。

 常連さんの前だからだな?

「メールしたでしょ。冬休みのあいだ、ここでバイトしたいなって」

 ちなみに返事もらってませんが。

「本気だったのか」

 驚いたような、呆れたような、あまり賛成って感じではない様子の大地くん。
 なんで?
 あたし、ちょっとは役に立ってるよ。

「家にはちゃんと言ってきた」
「そう」
「怒ってる?」
「怒ってない。ただ」
「ただ?」
「慣れないことして。怪我しないでね」

 大地くんが、あたしを心配してくれているではないか。

「慣れないことじゃないよー? 上手だよ、美香ちゃん」

 だ、ダメですよ海月さん。
 あたしが水面下で花嫁修業してることは大地くんには秘密なんです。

「そうそう。美香ちゃんの揚げた天ぷら。絶品なんだ」

 山田さんの言葉に、

「そうっすか。それは。……良かったです」

 言葉とは裏腹に笑顔ひとつ見せない大地くんが、店の奥へと消えていく。
 うん。
 大地くんは接客業向いていないね。あたしの方がずっと愛想いい。

「ははーん」

 海月さんが、ニヤリとする。
 つられて山田さんも笑う。

「どうしました?」
「べつにぃ」

 含みのある笑顔をされると、気になるんですけど。
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