オオカミさんはウサギちゃんを愛でたい。

 エントランスに向かう大地くんが、人混みに消えていく。
 その背中をいつまでも見つめていたら、モトナリがつぶやいた。

「自分の女なら。放っておくなよ」
「大地くんは、あたし達に遊園地を満喫してほしいんだと思うな」

 姉弟仲良く過ごして楽しい思い出作って欲しかった。
 ……そうなんだよね?
 
「そんなことして。あの男になんのメリットあるんですか」
「メリットなんて考えてないよ、きっと」
「まさか」
「自分に得がなくても動く人なの。ううん。誰かの幸せを喜べる人なの」

 あたしに笑って欲しいって、言ってた。

「大地くんは、今、あたしをタクシーに乗せるよりここにモトナリと残していく方が、あたしのためになると思うからそうしたんだと思う」
「……美香さん。変わりましたね」

 若菜と同じこと言うんだね。

「怒らないんですか。仕事、優先されて」

 これまでのあたしなら、気分を損ねていただろう。
 で、もう、あんな男とは会わないと決めていたかも。

「わかってて一緒にいるから」
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