オオカミさんはウサギちゃんを愛でたい。

「美香」
「あ、若菜。聞いてよー。マキノのやつ」
「すごい話聞いちゃった」

 若菜のはりつめた表情から、それが面白い話ではないと気づく。

「マキノ。子供亡くしてるんだって」

 ――――え?

「ほら。去年の。……震災で」
「嘘」
「ほんと」

 国内で大きな地震があったことは、記憶に新しい。
 ただしそれはニュース――テレビ画面ごしに見た景色で、怪我人や、亡くなった人たちがいることを数字でしか、知らない。
 そこにこんなに身近な人間の愛する女性がいたなんて思いもしなかった。
 
「産まれるってときに。里帰りしてた奥さん、巻き込まれて。奥さんは歩けないくらいの後遺症残ったらしい」
「そんな。……あたし、酷いこと言っちゃった」

『そんなんだから結婚できないんだよ』

「謝らなきゃ」

 なんで言い返さなかったの?
 あたしのこと怒ればいいのに。

「美香?」
「ごめん。先、戻ってて」
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