オオカミさんはウサギちゃんを愛でたい。

 大地くんは、あたしのどこが好きなんだろう。

「……まさか。胸なんじゃ」
「んー? どうかした?」
「いえ。なんでも」

 それにしても、料理を始めてから手荒れするようになった。
 最高級ハンドクリーム塗ってるのに。
 眠るときは手袋した方がいい……?

「美香ちゃーん。会いたくて今日も来ちゃったよ」

 のれんをくぐってきたのは、中年のサラリーマン。

「こんばんは、山田さん」

 昨日も来てくれた。

「嬉しいな。名前覚えてくれてるんだ」
「すっかり看板娘ね」

 山田さんから鞄をあずかり、カウンターの椅子を引く。

「うちの息子の嫁に欲しい。いや。俺が嫁にしたい」
「あは。なに言ってるんですか」
「ほんとなに言ってんすか」

 ――――!

「大地くん。久しぶりだね。覚えてるかい?」
「もちろんですよ。いつもありがとうございます、山田さん」

 大地くんだ。
 大地くんが、帰ってきた。
< 99 / 201 >

この作品をシェア

pagetop