わかりきったことだけを、
左利きの志葉が、ペンを持っていない右手で私の髪の毛に触れた。
「…ちょ、志葉、それセクハラ」
「え。ごめん」
「いや別にいいけどさ」
「いいんだ」
「嘘、やっぱダメ。セクハラ」
胸元まである自慢の艶髪は、夏になると暑さ対策で毎日ポニーテールにする。今日は記念すべきポニーテール開きだった。
私の中で、ポニーテールは真夏の始まりだ。
最近まではまだ'真夏'と呼べるほど暑くは無かったのでツインテールにしたりお団子にしたりとアレンジをして過ごしていたけれど、さすがにもう持たない。
時期は関係ない。たとえ今が6月に入ったばかりだったとしても、身体が四六時中アイスを求め始めたらそれはもう完全なる'真夏'なのだ。
志葉による不意打ちのセクハラで髪が揺れた。
「ごめん」と謝る彼の思考が分からない。
確かに志葉は私のことを好きらしいけど、だからといって女の子の髪にナチュラルに触るのってどうなんだろうか。
何も考えずに'つい'触ってしまったのか、
それとも意図的に、狙って触れたのか。
「ごめん。けど、似合ってる」
「志葉、セクハラで逮捕だよ」
「褒めるのもダメなのかよ。意味わかんねー」
どちらにせよ付き合ってもないのに触るのはダメだと思う。次やったら訴えてやる、松川先生に。