わかりきったことだけを、





「いや、ごめん。綺麗な顔だなって思っただけで」

「智咲がいるくせに平気でそう言うこと言うんですね」

「え、断じてそういうわけでは。志葉がいちばんかっこいいよ。私には誰よりもきらきらして見える」




いや、ホントに。

志葉はかっこいい。


私の世界に華を咲かせてくれる。

志葉の言葉一つ一つが私のぜんぶを動かすんだ。
志葉のために何かがしたいと思うし、ずっと笑っていてほしいと思う。


こんなの、生まれて初めてなんだ。





「志葉はさ、ホント、すごいよね」




そう言うと、羽瀬くんは「あたりまえです」と小さく呟いた。


彼は本当に志葉のことを人として尊敬していて、ずっとあこがれにしているんだと思う。
たった一言だったけど、それを察するにはわかりやすすぎる言葉だった。



「智咲は、ホント、すごい」

「うん、わかる。私の彼氏、すごいよね」

「…恋愛とか興味無さそうで、ずっと数式と見つめ合ってるような人だったんだ」



私と志葉が出会う前の話。初めて聞くかもしれない。
“数学成績優秀者でミステリアス”な志葉智咲は、ずっと前から志葉のデフォルトだったみたいだ。




――そんな志葉が'恋をした'のは、この春のことだったという。


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