わかりきったことだけを、
「志葉ってどんな子がタイプなの?」
呪文のような数式を解いていたペンを置き、頬杖を付いて首を傾げる。一瞬だけ顔を顰めて「なんだよ急に」という彼に私は言葉を続けた。
「志葉って、頭良いし無駄に顔が良いしモテるから」
「無駄に顔が良いのは浅岡だろ」
「最近の悩みは自分が美人すぎて辛いこと」
「そろそろ黙ることを覚えた方がいいと思うな俺は」
「黙ってれば美人」「黙ってれば可愛い」
もう何億回と言われたことがあるから慣れてしまった。
あちこちで噂されたり、聞こえるか聞こえないかの声量で言われたりすることはあったけれど、ここまで直球で言ってくるのは志葉が初めてだ。
志葉は面白い。
頭硬いくせにノリが良いところとか、ミステリアスとか言われてるくせに実は世話焼きなところとか、純粋にもっと知りたいと思うのだ。
「で、どうなの実際」
「何の話?」
「恋の話。モテる志葉くんのタイプ教えてよ。私が男だったら宮尾(みやお)さんとか後藤(ごとう)さんとかの顔が好きなんだけどさ」
隣同士で座っていた私と志葉。椅子の向きを変え、「どうなのどうなの?」と、ずいっと身を乗り出してそう聞くと、彼ははあ…と大きくため息をついた。
「浅岡ってやっぱすげーバカだ」
「ひどい」
「酷いのは浅岡の記憶力だろ。浅岡のこと好きって言ってんのに他の女の子見る暇無いし」
そう言った志葉はふいっと視線を逸らし「ムカつくわ」と小さく呟いた。
なんだか拗ねているように見える。