わかりきったことだけを、
「志葉?なんか怒ってる?」
あれ?と思い彼の顔を覗き込むようにすると、彼は、少し驚いたように身体を引いた。その拍子にがた…と少しだけ椅子が音を立てる。
「なんで怒ってるの志葉」
「怒ってないけど」
「けど、なに?」
「浅岡がバカからムカついた」
「具体的に言ってくれないとわかんないじゃん、私の目見てよ」
咄嗟に彼の手首を掴むと、彼はピクリと肩を揺らしたもののその手を振り払うことはせず、渋々視線を合わせてくれた。
「…意味わかんねーよ」
志葉が言う。意味がわからなくて首を傾げれば、志葉は、手首を掴んでいた私の手の上にもう片方の自分の手を重ね、私の手を剥ぎ取った。
「俺が好きだって言ったの忘れた?」
「忘れてないけど、」
「…他の女の話とか、俺の気持ち無かったことにされてるみたいでなんかやだ。ムカつく」
返す言葉が見つからず下を向く。
志葉の気持ちを忘れたわけでもないがしろにした訳でもない。けれど、いくら頭が悪いとは言えIQは関係ない。
私が志葉の気持ちへの配慮が足りないばっかりに彼を嫌な気持ちにさせてしまった。
バカにもレベルがあるとは思うけれど、申し訳ないくらいに自分がバカだと自覚してしまい、同時に少し悲しくもなった。
男の子は……というか志葉は、どうやらかなり私に一途らしい。