わかりきったことだけを、
13.「なにがだめなの?」
「しーばー」
「んー…」
「ねえ、どうしたの?」
「や、…どうもしないけど、」
「どうもしてるじゃんか」
「あー…」
志葉が変になった。さっきまで───つい10分前までは普通だったのに。
放課後の教室にて、私は志葉に恒例のことながら数学の課題を教えてもらっていた。「喉渇いた」っていう志葉が飲み物を買いに行ったのがちょうど10分前のはなし。
それまでは、志葉は通常運転で私の狙ってはいない上目遣いに顔を赤らめていたし、「相変わらずペンの持ち方綺麗だよな」って褒めてくれた。
わからないところがあったら嫌がることなく最初から丁寧に教えてくれていたし、教室に私たち以外誰もいないことをいいことに、不意打ちで時々キスをしてくるのも、…まあ、恥ずかしながらいつも通りのこと。
いったいこの10分の間に何があったというのだろう。この教室と自販機を往復するまでの間に、志葉の心境にどんな影響があったの。