わかりきったことだけを、
触れるだけの甘いキスだった。
数秒だけ触れ合った唇。身体を離した志葉は、突然のサプライズキスに固まる私をみてふ、とわらった。
…やっぱりチューしたかったんじゃん、志葉のへんたいめ。
「欲張り、志葉」
「ギャップってことにしよ、これ」
「自分で言うのは違うんだよ。わかってないなぁ」
志葉智咲という男は、かなり単純なおとこみたいだ。
だけどそんな志葉が好きだからどうしようもない。
たとえ優しさがふるいと言われようと、経験値がなかろうと、ヘタレだろうと───私は今日も、志葉がすきでしかたないのだから。
「志葉のせいでプリント全然終わってないから代わりにやって」
「それはだめ。俺が松川先生におこられる」
「けち」
「いいからはやくやれ」
.
その数日後のはなし。
志葉をおち込ませた名前も知らないチャラめな1年生の男の子から話しかけられたので、聞かれてもいないのに「志葉智咲っていう最高に素晴らしい彼氏がいるんだよね」と言っておいた。
「変人っすね」とあきれたようにたったひとことでそう返されてしまったけれど、隣で志葉が嬉しそうにしていたので、良しとしようと思う。