わかりきったことだけを、




「志葉に託されてるからね、私の夏休みと志葉のご褒美は」

「ん。明日から毎日計画的に叩き込む」

「明日?今週の課題はもう終わったよ、ほら」




ぺらり、机に広がる数学のプリントを見せる。
すると志葉は「だから、」と言葉を紡いだ。



「テストまでもう2週間ちょっとだろ。お前の頭じゃ追いつかねーよ」

「えぇ、スパルタじゃん」

「ハッピーサマーバケーション欲しいんだよな」

「欲しいです…」

「舐めたこと言ってるとまた地獄の補習行きだよ。それでもいいなら別にいいけど」




自分だって私との花火大会がかかってるくせに、そんなのずるいぞ、志葉。


とは言えハッピーサマーバケーションがかかっているのは事実で、数学に限らず他の強化もそこそこ勉強はしないといけないのだ。

余裕だなんだと言ってはいられない。



「優しくしてね志葉」

「は?なめてんの?俺のロマンがかかってんだよ。厳しくするに決まってんだろ」

「本音が出てますけど」

「浅岡のハッピーサマーバケーションは俺の手の内ってこと忘れない方いいよ」

「脅迫罪で逮捕だよ志葉」

「勝手に言ってろバカ」



試験まであと3週間弱。

この3週間の間で私たちの距離が限りなくゼロに近づいていくことなんて、この時の私は想像もしていなかった。



けど、​志葉は違ったのかもしれない。

最初から全部想定内で、着実に私の意識をかっさらう方程式を解いていたのかもしれない。



​───ご褒美ちょうだい、




だとしたら、ほんと、志葉って欲しがりだ。


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