わかりきったことだけを、
「クーラーあるし、図書館より近いよ」
「志葉、セクハラ」
「なんでだよ」
「う、……家って、」
「俺ん家共働きで夜中に帰ってくるから誰も居ないよ」
「せ、セクハラだ」
「なんでだよ」
ナチュラルに女の子を家に呼ぶなんて何考えてるんだろう。親がいるとかいないとかそういう事じゃない。
ていうかこの場合の'家に誰もいない'は変に緊張してしまう。志葉のあほ。変態め。
「浅岡、今何考えてる?」
目が合った。志葉がニヤニヤしている。
その顔、初めて見たかもしれない。
ムカつくことにかっこいい。
「う、…何も」
「俺のこと意識した?」
「……してないですが」
「へぇ。じゃあいいじゃん。行こ」
ぱたり、教科書を閉じた志葉が言う。
「浅岡も早くしな」と急かすように言われ、流されるままにプリントとペンケースをカバンに突っ込んだ。
私、本当に今から志葉の家に行くのかな。
…や、そうだよね。行くんだよね。
クーラーあるって言ってたし、図書館より近いって言うし。ただ好条件なだけ。
そうだ、何も緊張することなんてない。
私と志葉は別にそういう関係じゃ───…なくないじゃん。
ええ、私たち付き合ってるじゃん一応。