わかりきったことだけを、






「お邪魔しまーす…」

「誰もいないって」

「ダメだよ、居なくても挨拶はちゃんとしないと」




学校から歩いて10分のところにあった綺麗めなマンションの7階、角部屋。そこが、志葉の家だった。


慣れた手つきでオートロックを解除した志葉が、「どーぞ」と私を中に招き入れる。



恐る恐る玄関に足を踏み入れると、ふわり、いい匂いが鼻腔を擽った。

私が密かに好きな、志葉との距離が近くなった時だけ時々香る匂いだ。…まあ、志葉の家だから当たり前なんだけど。



「浅岡」

「ん」

「リビングと俺の部屋、どっちがいい?」



玄関を抜け直ぐの扉を空けリビングに入る。

家具は木で揃えられてあり、落ち着いた雰囲気のあるリビングだな、と思った。
ドライフラワーが飾ってあったり、レースのカーテンだったり、志葉のお母さんの趣味も所々取り入れられてある様子が伺え、なんとなく可愛らしさもある。



志葉の部屋はどんな感じなんだろうか。


男の子の部屋のイメージが全く湧かない。
漫画やテレビで見るのは大体シンプルで統一されたものだったり、好きな物で埋め尽くされてあったり様々だ。

私のイメージできる志葉の部屋はカーテンが淡い青色ってことくらいだ。



「……、志葉の部屋」

「ん?」

「クーラー、ある?」

「ある」

「…じゃあ、部屋がいい」




志葉の部屋……結構、かなり、興味深い。


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