わかりきったことだけを、
空白ばかりの英語のプリント。それとは裏腹に、志葉の前に置いてある数学のワークは殆ど埋められていた。
同じ空間に居るはずなのに、志葉はまるで普通だ。
私は初めて入る男の子の家に緊張して、
志葉の匂いを意識して、
いつもより近い距離にドキドキしてるのに。
志葉は私のこと好きなはずなのに。
好きな女の子と2人きりのこの状況でなんにも感じてないなんておかしい。信じられない。
「…志葉のばーか」
「え?」
「ばか、あほ、ぽんこつ。これ、志葉の3要素」
急に小学生みたいな言葉を口にした私の視界には、目を丸くした志葉が映っている。志葉の頭の上にハテナが見える。
「な…え、どうした?」
「どうもしないけど」
「いや、え、なに?え、全然意味わかんない」
「頭が硬い志葉くんにはわかんなくていいよ。ムカつくもん」
わかんない。私も全然わかんない。
志葉、私の事好きならもっとアピールしてきなよ。
私のこと好きならもっと顔赤くして照れてよ。
私といることに慣れないで。
私のことモヤモヤさせないで。
なんでそんな普通の顔していられるの。
なんで私の方が動揺してるの。
「浅岡、最近なんか変」
志葉がペンを置いて私の顔を覗き込んで来る。ぐっと縮まった距離に 咄嗟に上半身を引くと、トン…と背もたれにしていたベッドが当たった。