わかりきったことだけを、





「…おわり、」



志葉がそう言ったらおしまい。

「志葉、」って、彼の制服の袖をくいって引っ張ると、志葉は大体いつも困った顔をする。



「…浅岡のそれずるいって」

「最後にもっかいだけ、して」

「…なんなの、ホント」

「しば、」

「もー…、浅岡きらい」



志葉のその顔が好きだ。

私のこと好きなくせに嫌いって言う、バレバレの嘘も好きだ。
そうして結局最後にもう一回だけ優しく重なる温度も好きだった。



「ん。帰ろ」

「…、引き止めてるの浅岡なんだけど」

「応えたのは志葉だよ。ホント私のこと好きだね志葉くん」

「…まじで意味わかんねー…」




本当は気付いている自分の気持ちには、花火大会が来るまで知らない振りをしていたい。

私が彼に気持ちを伝えるのは、きっと今 このタイミングじゃない。



私は志葉と違ってロマンを大事にするからね。


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