わかりきったことだけを、
お母さんに言われた言葉を思い出し、ガタリと席を立つ。
この後はホームルームをして帰るだけだ。
放課後の勉強会はもう無い。
帰る前にひとつ、彼には先約を入れておかなければ。
「たのもー」
「は?」
「志葉智咲にたのもー、です」
「や、意味わかんない、怖いよ浅岡」
「志葉くんよ」
「え、うん、なに」
「う、………今日、一緒帰ろ」
ホームルーム前の教室はざわついているから私の声なんて志葉にしか届かないだろうと思っていたけれど、それは飛んだ思い違いだったらしい。
「志葉くんと浅岡さんが話してる…!」
「顔が!顔がいい!輝かしい!」
「てかやっぱ、ホントに付き合ってるんだね」
「浅岡、誘い方さえも独特で可愛いな」
こそこそ、ひそひそ、全部聞こえてる。
聞こえてるけど、私は志葉の声しか欲しくない。
ぎゅっと拳を握りしめ、返事をしない志葉と目を合わせる。
ぽかんと口を開けた志葉はどこか間抜けで可愛いな…なんてそんなこと思う余裕なんてないはずなのに、いざ志葉を前にすると綺麗な顔面に毎度感心してしまう。
「…嫌、なら別にいいです」
「は?なわけ」
「っじゃあ返事してよ。いいとかやだとかうんとかプーとか」
「プーは無いと思うけどな」
「そんなのいいじゃん。で、どっちなの志葉」
「いーよ。つか俺は最初からそのつもりでいた。テスト最終日の放課後は彼氏のもんだろ、普通」