わかりきったことだけを、





志葉のワイシャツをクイッと引っ張り、志葉が私のこの顔に弱いことを知った上で上目遣いをする。



「…やめろって言ったろ、その顔」

「……わざとしてる」

「もー…、」



頬を摘んでいた手の力が緩む。
顔が少し熱を帯び、志葉が困ったように眉を寄せた。



「…浅岡は、そーやって男を騙してきたの?」

「…ん?」

「その顔で、そーいうことしてきたんでしょ」

「ん?」

「ホント、浅岡のくせにずるいよね」




「ムカつく、」と呟いた志葉。


その言葉から察するに、志葉はずっと私には過去に何人も男がいたと思ったままみたいだ。

志葉のことを試したくて付いた嘘。そういえば訂正していなかったなぁ、と呑気にそんなことを思った。



「浅岡」



頬から手を伸ばした志葉が私の名前を呼んで両手を広げた。




「ギュッてして欲しいんでしょ。おいで、ほら」

「…言われなくても行くし」

「なに、得意のツンデレ?」

「志葉、それセクハラ」

「はいはい」



腕の中に飛び込むと、志葉は私の望み通りギュッてしてくれた。強くなった志葉の香りが鼻腔を擽る。背中に回った手でトントン…と優しく叩かれるのは、結構好きだ。


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