わかりきったことだけを、





志葉のワイシャツをぎゅっと握りしめ、徐々に深くなるそれに必死に付いて行く。

私に過去の相手なんて居なくて、全部志葉が始めてで、そんな私に余裕なんてあるわけが無い。




「…、は、」

「浅岡、息止めてたの?」

「っ、志葉のせいじゃん…っ」

「息の仕方覚えな、ちゃんとさ」



開放された視界に、スキンシップに慣れない私にフッと笑いかけた志葉が映った。



志葉は私と違って異性の扱いに慣れてると思う。


モテるから経験豊富というのはあながち間違った思考ではないんだな と、自分には無い過去を持っている志葉がどこか遠い存在に思えてしまった。


志葉の過去になんて興味はないし、振り返ったところでどうにも出来ないことを知っている。

別に元彼女に嫉妬する訳では無い。

今志葉の隣にいる女の子が私だから別にそれで良いんだけど。


私の上目遣いで照れるくせに、触れ合うといつも志葉ばかりが余裕そうなのはどうも解せない。




何が息の仕方覚えなよ、だ。

さっきまで照れてたくせに。
ていうか、私の呼吸を乱してるのは志葉なのに。



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