わかりきったことだけを、
あっという間に夏休みが来て、今日は花火大会。
花火が上がるのは19時なので、屋台を楽しむ時間を含めて17時半に駅で待ち合わせをすることになっていた。
お母さんに手伝ってもらって浴衣を着て、髪の毛を可愛くアレンジして、化粧もいつもと違う雰囲気にした。
普段は暗めのアイシャドウや赤が強いリップを好んで使うけれど、今日は守ってあげたくなるような女の子がしてそうな淡い色を使った。
私だって意識してるんだよ、志葉。
隣を歩いて「お似合い」って言われるように。
'志葉くんのカノジョ可愛い'って噂されるように。
使える顔面を活かすのは悪いことじゃないもんね。
「ホント、…なんでそんな可愛いの、」
待ち合わせ場所に着くともうすでに志葉はいて、私の姿を捉えるや否や耳まで真っ赤に染めて「や、まって…」と呟いたのだった。
いつもは白いワイシャツを着ているイメージしか無かったので、黒の浴衣を着た志葉はいつもより随分と大人っぽく見えた。
「志葉のために可愛くしてきた」
「そ、……いうこと言うのやめろよ」
「はっはあ、さては私が可愛すぎて動揺しているな?志葉少年」
「…だからそう言ってんじゃん。ムカつく、可愛い浅岡」