わかりきったことだけを、
「浅岡、あっち行きたいの?」
志葉が私の顔を覗き込むようにして言った。ちょうど花火が上がって途切れてしまった言葉の続きを求めているらしい。
ーーあっち、
そう言って指さしたのは、屋台の裏側の道にある石段だった。たしかもう少し先に行くと神社に繋がっていたような気がする。
神社までの裏道、とでも言った方がわかりやすいかもしれない。
パッと見て、そこに人気はほとんどなかった。おまけに花火が始まったので、付近にいた人もどんどん 綺麗に見えると噂のスポットへと足を向けている。
「いいけどどした?下駄痛くなった?」
そうは言いながらも私の要望通り石段に向かってくれる志葉。たどり着いたそこにゆっくり腰を下ろす。
「足痛いの平気?帰り、歩ける?」
……違うの、志葉。
たしかに下駄は痛いし座りたいのも少しあったけど、そうじゃないの。私は志葉と2人きりの空間で花火が見たかっただけなんだ。
「…、ロマン、」
「え?」
ぜーんぜん、分かってない。
花火大会にある男女問わずのロマン。
「……志葉、ここで、キスしたい」
少女漫画の見すぎだよって言われても譲れない。
2人きり、花火の下、人目に隠れて唇を重ねる。
それが憧れで胸きゅんでーー私のロマンなんだよ、志葉くん。