わかりきったことだけを、
「まあ、志葉も男だからなぁ」
「男、でしょ。そりゃ」
「違くてさ。姫宮の近づき方によっては'絶対ない'とは言いきれないよって話だよ」
そういったお花畑くんの視線が志葉の先へ向けられる。つられるように視線を移し、私は「……はぁ?」と声を洩らした。
「姫宮は余裕で俺よりタチ悪いよ」
「…、サイテーじゃん」
「そうだって。あれ、いまのサイテーって俺も含まれてる?」
「…サイテーなんだけど、志葉…、」
「え?」
タイミング悪く、ちょうど姫宮さんが志葉に触っていた時だった。
にこにこ笑って、志葉のサラサラの黒髪に触れている。「ゴミついてるよ」とか、そういう在り来りなパターンかもしれない。
けれど今、お花畑くんからの情報も含めると、彼女のそれは80%の確率でわざとやっている。
ーーそれでいて、だ。
私は視力両目2.0だから分かる。志葉の耳がほんのり赤いのだ。
姫宮さんに触られて照れてんの?
はぁ?なにそれ、純情ぶってんの?
一気に押し寄せた黒い感情は、人にそこまで興味が無い私が今まで感じたことの無いもの。モヤモヤして、息苦しくて、今すぐ志葉のところに行って抱きつきたいけどそれも出来なくて。
「あれ、浅岡さん怒ってる?」
「怒ってない。お花畑くんうるさい」
「え。怒られた、ごめん」
お花畑くんには怒ってない。
ていうか、頭の中がお花畑なのは志葉の方だ。
「浅岡さん俺が慰めてあげよーか」
「彼氏持ちには手を出さないってさっき言ってたじゃん。記憶力ニワトリなんだ、お花畑くん」
「うわ、浅岡さんってキレると口が悪くなるんだ。メモしとく」
「しなくていい」
志葉から目を離して晴れ渡った空に目を向ける。
そんな私の後ろ姿を志葉が見ていたなんて、私は知る由もない。