想いの生み出したもの・イエスタデイワンスモア
 その店は雪国の港が臨める高台にあった。
 店舗兼住宅の建物は木造モルタル二階建てで1階に喫茶店、2階に住居スペースがある。一人で暮らすにはいささか広すぎる感はあるが美冬はここに留まっていた。
 北国の日照時間は短い。
 一日の大半は陽の差さない気の滅入りそうな薄闇だ。大抵は空似分厚くて黒い雲がかかりただでさえ気温の低いこの地を冷やす。雨よりも雪のほうが降ることが多く、土地の人間は生まれた頃から雪に馴染み、雪とともに育っていた。
 喫茶店のフロアにはカウンター席と五つのテーブルがあり、窓に面したテーブル席からは海が見える。少し支店を変えれば港も見ることができ、人々の営みを観察することもできた。
 店内には美冬の父親である店主の趣味が丸出しになったような写真や装飾品が飾られている。大判の三枚の写真には満月と雪原を走る狼、燃え盛る焚き火を中心に躍るインディアンたち、むき出しになった山肌を幾つも連ねる険しい山脈が写っている。壁にぶら下がっているのは鳥の羽と草花で作られた魔除けの髪飾り、雄鹿の首だけの剥製、黒曜石と翡翠が散りばめられたネックレスなど。棚の上からは大鷲がその巨大な翼を広げて客席に睨みをきかせていた。
 
 
 

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