イケメン従者とおぶた姫。

お互いの気持ち。

ショウ達がダリアと話をし、ロゼが家出をしている間。

何故か、ゴウランはファミレスでタイジュと食事をしていた。


…何故、こうなった?

と、ゴウランが困惑するくらいに二人に接点が無かった。

あるとすれば、王子、姫、王族達が王位継承権を掛けた旅をしている事くらいだ。
あとは、何かの行事やパーティーくらいか?
それでも、人が大勢いる為顔を合わせる事も話す機会もさほどない。

遠くであれが誰だとか、その人に関する自分の知り得る噂話はするし聞いたるもする。
そして、目が合えば軽い挨拶程度。


城でも内輪揉めを避ける為、王子や姫達は出来るだけ顔が合わないようそれぞれ離れた宮殿に住んでいる。

だから、ゴウランとタイジュは他人の筈。


それが、何故こうなってしまったかというと…


ーそれは、遡る事数時間前ー

ゴウランは、オブシディアンから課された基礎トレーニングをしていた。
たまたまであるが、そこでダイヤグループ、タイジュと場所や時間が被ってしまったのだ。

そこで、みんな驚きと気まずさがあった。別に仲がいい訳でもないただの顔見知り、或いはパーティーなどで遠くから見て顔だけ知ってるような微妙な関係だったから。

そこで、ゴウランは一番驚かれてしまった。


「…え?どうした?ゴウランがトレーニングなんて!?」

と、ダイヤにちょっとムッとする事を言われてしまったが、…まあ、今までの自分を考えれば仕方ない話だ。
それを分かっているから、ゴウランはダイヤに


「…いや。色々あって、今までの自分の行いを見つめ直してます。気付くのが遅かったかもしれないけど、それでも今、自分にやれる事をしたいと考え行動しています。」

ザックリではあるが、正直に自分の胸の内を話し

「ビーストキングダムで一緒になった時は、ありがとうございました。
そして、数々の非礼をお詫びします。謝って済む事ではありませんが、その度は本当に申し訳ありませんでした!」

と、ダイヤ一行に向かい、深く頭を下げ謝ってきたのだ。

それに対しても、ダイヤ一行とタイジュは驚いていた。何故なら


まだ、みんながこの旅に出る前の話だ。

城内や城下町では

王子や姫、城で働く様々な人達、他にも各著名人、有名人など数々の噂話が出回っていた。

どこへ行っても、人の噂や有名人の話題は付き物である。

その中でも、王子のヨウコウとお友達役のゴウランは悪い意味で結構話題に上がっていた。

“ヨウコウ王子は、傲慢で自信過剰の恥さらし王子”

“金遣いの粗い、下半身モンスター”

“将来、サイウン姫と同等の最低最悪の巨悪になりそうだ”

“そのヨウコウ王子の友達役も似たり寄ったり”

そう、噂の種になっていた。


同時に、ダイヤは

“努力家で、人望が厚く明朗快活。チャラそうな見た目に反し、真面目で礼儀正しいというギャップがまた魅力”

タイジュに関しては

“品行方正。人の心を惹きつけるカリスマ性があり、何でも優秀にこなす天才肌。
美貌に関しても、美形だらけの王子・姫達の中でも一位、二位を争うほどのイケメン”

と、二人は評判が良かった。

だが、その当時ヨウコウとゴウランは王子と将校の息子だぞ!と、大物ぶり威張ってふんぞり返って豪遊し悪い遊びばかりしていた為、そんな噂も大して気にも留めなかったし

なんなら、自惚れが強く思い上がっていた為、王子や姫達の中でも一番凄いのは自分。自分だけが特別くらいに思っていた。

…今のゴウランにとって、この事を思い出すのはとてもキツい。過去の自分…痛い…痛すぎる。恥ずかしくて、出来るものなら過去に戻ってやり直したいと思うほどには。


ダイヤ達から見たゴウランは、前回関わった時と全然雰囲気が変わってとても驚いた。

だから、トレーニングを終えてからみんなで昼食を取ろうという事になり、ゴウランが自分を見つめ直し変わろうとしている経緯について聞いた。

ショウを虐めていた事など聞いていられないくらい酷い話ばかりだったが、それでも思い直し変わろうとするゴウランには好感が持てた。
だが、今までの彼のしてきた事は到底許される事ではないし、いくら考えても胸糞悪い。

ゴウランが変わろうと思ったキッカケは、幾つかあったようだが中でも大きかったのはヨウコウとミミの裏切り行為だったようだ。

聞けば聞くほど、男女関係が恐ろしく感じる話ばかりで、…特にミミの話を聞いて、みんなブルブルッと身震いしてしまった。

と、そこでタイジュが


「初対面で、こんな事を聞くのは失礼だと分かっているけど…ゴウラン君って女性経験が豊富って話を聞いた事あるんだけど、本当?」

なんて、聞いてきたのだ。


「…あ、まあ、それなりに?でも、今はもうそんな事はしてないし、するつもりもない。」

と、自分の思い出したくない黒歴史の一つを出され複雑な気持ちでいた。


「…そんな経験豊富なゴウラン君に相談なんだけど、実は…俺、婚約者と上手くいってなくて。」

なんて、恋愛について相談してきたのだ。

…え!?なんで、俺?

と、驚くゴウランに


「過去、女性経験豊富だったけど、今は心を入れ替えて遊びをやめ交際についても真剣に考えているんだろ?そんな君だから相談したかった。」

タイジュは、必死な様子でゴウランを見てきた。ダイヤ一向は脳筋が多く、恋愛話にさほど興味がなかった為、二人を残して帰ってしまった。


「…いや。そうは言っても、過去遊んでいた女達とは真剣交際とかそんな関係じゃなかったし。…あんまり言いたくない話だが、初めて本気で好きになった女がマジで最低最悪の悪女で……」

と、自分が知り得るミミの悪事を洗いざらい喋った。

まともな交際なんてしてこなかったゴウランは、自分にまともなアドバイスなんて無理だという主旨を伝える為、自分の失態をオブラートに包みほんの少しだけ伝えてこの話は終わらせるつもりだった。

だったが、ヨウコウとミミの話をしているうちに、段々と熱が入り

タイジュが聞き上手な事もあり、いつの間にか喋らなくていい事まで洗いざらい喋ってしまっていたのだ。

ハッとした時には、もう…というやつだ。

これは、単にタイジュが聞き上手なだけでなく、タイジュが知りたい情報を得る為に上手く誘導された感が否めない。

多分、タイジュの尋問が上手いとかそんな事ではない。タイジュは、人の心を掴む何かを持っているのだろう。

気がつけば、気を許して喋っている気がする。


「…そっかぁ。それは、本当に酷い目にあったな。災難という他、声の掛けようがない話だ。だけど、人間不信になってもおかしくない状況で、よく持ち堪えたよ。
しかも、自分の非を認めて自分を変えようと努力してるだろ?
これって、なかなか出来る事じゃない。俺は、正しくあろうとする今の君の姿勢を尊敬する。」

しかも、自分の頑張りをめちゃくちゃ褒めてくれた。嬉しくない訳がない。

だけど、やっぱり何故今の今まで関わり合いのなかった自分に相談がしたいなど腑に落ちずいた。


「今まで関わりがなかったのに、どうして自分に相談を持ち掛けたのかって不審に思ってるよな?」

と、タイジュに見透かされたゴウランはドキリとしてしまった。


「もちろん、それには理由がある。」

…理由?この優等生な王子に、何の理由があって自分なんかに相談をしてきたというのかゴウランは頭を捻っていた。


「…恥ずかしい話、城内で流れてる俺の噂は表の顔の俺。実際は、周りにはいい人ぶって見せてるだけで、裏では身元がバレない様に変装して自分のむしゃくしゃした気持ちを晴らす為に不良達と喧嘩して、そこで気が合った悪友達と一緒になってクラブでターゲットを見つけては騙して遊んでた。

どうせ、女漁り男漁り、乱行とか薬、ヤバいゲームとか刺激を求めてくるクズカスばかりだ。馬鹿が騙されたって自業自得だよな。って、そいつらの事を同じ人間とも思わず、どうでもいいオモチャの様に感じてた。

俺は、喧嘩以外はVIPルームで、バカ共の行動を高みの見物して。マジで、馬鹿しかいない、クズカスばかりだなって冷めた目で見てたよ。

それで、最後騙されてた事に気付いたターゲットが悲痛な顔をしてドン底に落ちた姿を見て、それをVIPルームのモニターで見ては悪友達と笑って大はしゃぎしてた。」

と、言うタイジュに、ゴウランはドゴーーーーーン!!!とドデカい雷に打たれた気持ちになった。

あんなに、品行方正で優等生だって評判の王子がまさかこんな…と、ゴウランは絶句して開いた口が塞がらなかった。


「…最低だろ?自分で言うのも何だけど、何でもすぐできてしまうから大した苦労も知らない。これといって熱中できるものもない。

周りは、そんな俺に期待の目で見てくる。その期待を裏切っていけない。もし、期待を裏切ったら自分はどうなってしまうんだろうというプレッシャー。

周りの目ばかり気にして優等生するのにも疲れてしまったんだ。

そのどうしようもない気持ちを、喧嘩と、自分の手は汚さず人を騙して高みの見物して憂さ晴らししてた。」


…ああ。窮屈な城の中で、周りの期待に応えようと良い子ちゃんばかりしてて疲れたんだな。

それを思えば、可哀想な気もしてくる。

けど、これはかなりヤバ過ぎる話だと目の前にいる本性が、極悪非道の男を見てゾッとした。


「こんな俺だから、マジでいい奴のダイヤ君にはこんな最低な話、聞いてほしくなかったんだよな。」

と、タイジュは苦笑いして見せた。


「まだ、最低最悪な話があってさ。その事が本題。」

なんて、聞いちゃってゴウランは、まだ、とんでもない極悪な話があるのかよ…もう、やめてくれぇ〜と魂が抜け出しそうな思いでいた。


「俺達には社交会ってあるよな。そこで、俺達は気に入った子がいたら、どんなに幼くてもそこで婚約者が決まってしまう。」

それは、ゴウランもよく知っている。社交会は王族や華族(貴族)、大きな権力や財力を持ったお偉いさん方が集まる場。

将校の息子であるゴウランも、よく参加させられた。ヨウコウのお供としての立場もあり、ヨウコウが参加する時は必ず行っていたから。

そこで、恋多きヨウコウは一目惚れした御令嬢をいたく気に入り、その時の感情のままにその子を自分の婚約者にして

後になって、大きく後悔したんだよな。

なにせヨウコウは、飽きっぽい。
そのあと直ぐに別の子にお熱になっていたし、その子の事も直ぐに飽きて直ぐ別の子に心が移り、恋多きヨウコウは次々と相手を変えていた。そんな事を繰り返していたし、よく城外へ出ては“自分は将来有望な王子だぞ!”って、威張り散らしては遊び歩いていた。そして、気に入った女の子達をよく城に招待して遊んでた。

…それにあやかって、調子に乗って自分も遊び歩いてたのは今では思い出したくもない黒歴史だ。

そうそう。ヨウコウが、婚約者にした子は成長するにつれて、容姿がどんどん劣化していってヨウコウは婚約破棄するって大騒ぎするも

一度、婚約者を決めたら、滅多な事が無い限りは婚約破棄なんてできない。お家の事情がある。

なんて、ゴウランが思い出している中、タイジュは自分の話を続けた。


「そこで、毎回のように誰にも相手にされず、ひとりぼっちで詰まらなそうにしていた女の子がいた。もちろん理由は一目瞭然。
ぽっちゃりで容姿も良くない、挙げ句は根暗でコミュ障。
そんな子、誰だって嫌だろ?」


確かに、そんな女なんて絶対相手にしたくないし関わりたくもない。周りの奴らに、そんな奴と知り合いだって思われたくないから、と、ゴウランは頷いた。


「そこで、俺の性根の腐った悪い癖が出てしまった。

誰からも相手にされない、この根暗ブスに好意があるフリをして近づいて夢を見せて、この根暗ブスが調子こいた所で現実を見せつけて地獄のドン底につき落としてやろう。そこで、憂さ晴らししようってな。

俺目当てで、どんどん群がって来る女の子達をどうにかかわして、根暗ブスに声を掛けた。

もちろん、その頃俺には恋人もいたし。俺の悪友達とその当時の恋人と一緒になって、根暗ブスを騙して陰で笑って次の作戦立てては実行して彼女をオモチャにして遊んでた。」


…って、て、て、事は、ファミリーの日で、俺が見かけたタイジュ王子と婚約者のあの仲睦まじい姿は偽りだったって事か…!!?

な、なるほど!

それだったら納得できる

で、なきゃ、あんな根暗のデブスは絶対に無理だわぁ〜

ぶっちゃけ、ないわぁ〜って思ってたんだよなぁ

だよなぁ〜

二人の見た目が、あまりに不釣り合いだから違和感ありありだったんだよな

と、ゴウランは、タイジュの暴露話に納得できてしまった。

そして、あの時のあまりに自然な動きのタイジュに、将来は演技派俳優になれるんじゃないかと心の中で絶賛した。ミミも相当なまでに演技が上手かったが、タイジュも見事だと呆れた意味で感心していた。

あと、タイジュがモテにモテまくってた事は、よ〜〜〜く知っている。

だって、ヨウコウが狙ってた女の子達もタイジュに夢中になっていたし、
タイジュともう一人の超イケメンで会場にいる女の子達の大半がその二人に二分になって群がっていたのだから。

だから、ヨウコウはタイジュともう一人がパーティーに参加してる時は、かなり機嫌が悪かったのを覚えている。当然、他の男性方もだ。

もちろん、だいたいの女の子達が二人に相手にされないので、その中で気に入った美女をヨウコウとゴウランはよくお持ち帰りしていたのだが。


「…けどさ。その内、自分の恋人がどんどん何人も変わっていく中、俺は1年以上もその根暗ブス一人を騙して憂さ晴らししてた。
根暗ブスを騙して1ヶ月経つ頃には“いい加減、飽きないか?自分はもう飽きたぜ?そろそろ、現実見せてやろうぜ。”って、悪友達が言ってたのも流して、俺は“だったら一人で遊ぶ”なんて言ってさ。」


…は?…え??

…それって、どういう事だ?

騙して遊ぶにしても、その悪友達とだいたいの期限を設けてるはずだ

いくら面白くて、それを長引かせるにしたって、一年以上って…いやいや!?

…長っ!!

おかしくないか?


と、ゴウランが思っていると


「…そうだよ。ゴウラン君が、だいたい予想してた通りだと思う。
俺はいつの間にか、自分でも気がつかないうちにその根暗ブスに夢中になってた。心を奪われていたんだ。

それに気がつくのに時間は掛かったけど、認めてしまったら気持ちが楽になった。同時に、彼女を騙してた罪悪感に苛まれる毎日を送るようになっていった。」


いやいや!!

そんなの予想してなかったし、何がどうなれば根暗ブスに惚れるんだよ!

あり得ねぇ〜

一体、何があって惚れちゃった?

おかし過ぎるだろぉ〜


と、ゴウランは、信じられないとばかりに頭を抱えていた。


「彼女と居るうちに、俺は今まで自分は一体何をしてたんだ。そんな、人を陥れるような真似ばかりして何がしたかったんだって、そこで初めて自分の犯した罪が見えてしまった。
それまで、自分が悪いことをしてるとも何も感じた事も無かったのにな。」


…あ、そこは分かる部分がある

自分が悪さしてる時って、背徳感とかスリルが楽しくて悪い事してるって自覚ないんだよな

むしろ、その悪さする事で自分が偉い奴にでもなった気分になれる

人から注意されると図星つかれるのが嫌で、自分は悪くないって逆ギレしては、悪さに拍車が掛かっちまうんだよなぁ…

心のどこかで分かってるけど認める事が無い、できない


だって、自分は悪さしてる癖に、悪者にはなりたくない、周りに軽蔑されたくないから


「自分が、彼女が好きなんだって自覚してから、俺は14才の時に彼女を婚約者として指名した。けどなぁ〜、そこで大きな問題が立ちはだかったんだよな。
向こうは貧乏貴族だし、彼女は何から何まで劣等だらけ。
だから周りからは、彼女は俺には釣り合わないって大反対くらった。けど、それを押し切って彼女を婚約者として迎え入れようとした。」


そりゃ、表向きだろうが将来超有望間違い無しの品行方正な優等生、しかもこんなイケメンが、根暗ブスの貧乏貴族を婚約者にしたいなんて言ったら大反対されて当たり前だな

「向こうの家族からも、“家が貧乏だし娘はこの通り容姿もイマイチなうえ、不出来でして王子様には相応しくありません。”って、言ったのは流石田舎者だと思ったな。
力もない貧乏貴族如きが、王族の言葉に背くなんてあり得ない話だから。

もちろん彼女の気持ちは考慮したよ。
当然、彼女は俺の事が好きだって疑わなかったし、俺に夢中だと思ってたからな。
この俺と婚約者になれて嬉しくて舞い上がっているだろうくらいに思ってた。」


…いやいや!

そんな貧乏貴族だったら、こんな超ハイスペックな王子様が娘を婚約者にしたいって話になったら普通喜ばないか?

まあ、それはさておき

そうだよな!

こんなハイスペックなイケメン王子に迫られてたら、そりゃ夢みたいな話に思えるな

舞い上がって当たり前だ

と、ゴウランは、うんうんと頷いてタイジュの話を聞いていた。


「俺の必死の訴え掛けで、何とか彼女と婚約者になれそうな方向に話は向かっていった。
俺はその事が嬉しくて、直接その事を彼女に伝えたくて居ても立っても居られなくてな。
まだ、しっかり決まった訳でもないのに、その足で直接彼女に会いに行ってその事を伝えた。

当然、彼女も喜ぶだろうと信じて。喜びすぎて腰抜かさなきゃいいけどなんて思ってたりもしてた。

だけど、実際会って話してみたら、俺の想像してた反応とは全然違ってた。

その時、彼女にかなり驚かれて困惑された。そこで、初めて彼女の様子のおかしさに俺は気付いた。

今までは、彼女は夢見心地で俺と一緒にいたに違いないって思ってたし、実際彼女もそう言ってた。

けど、俺の考えは合ってるようで、まるで違っていた。」


…んん???

どういう事だ?

そんなん、喜ばない方がどうにかしてるよ

…俺には、あんま分からないがアレか?

相手が凄すぎる人だから、自分なんか恐れ多くて無理だって卑屈になってしまう感じか?

と、自分には縁のない話だから、あんまり考えた事のない劣等だらけの人間の気持ちをゴウランなりに必死に考えてみていた。


「そこで、彼女は俺にこう聞いてきた。
“…わ、ワタクシが?…えっと…、今度はどんな遊びなんでしょうか?”
ってな。それを聞いて、俺はフリーズしたな。彼女の言葉を聞いて、俺は彼女の言葉の意味を理解できなかった。

そして、あわあわと慌てふためく彼女の行動や仕草とは裏腹に、彼女の冷静な観察眼と分析の言葉を聞いてようやく俺は知った。」


…ドキィーーーーーッッッ!!?

…は?

それって、もしかして根暗ブス…お前…

と、ゴウランが想像した通り


「彼女は最初から、俺を信じてなかった。それどころか、彼女に近付いた理由も俺が城外へ抜け出し悪い遊びをしてる事も、俺の歴代のカノジョ達の事もおおよそ知ってた。
次に彼女が言った言葉には俺もかなりキツイものがあった。

“…その、ワタクシと王子様ではあまりに身分が違い過ぎて、華族と名ばかりの庶民と何ら変わりない貧乏貴族のワタクシは王子様に逆らう事などできません。

王子様の言葉一つが、どのような影響力があるかご存知ですよね?

なので、ワタクシは何となくではありますが、王子様のお遊びの内容を察し逆らう事なく合わせてまいりました。

ですが、それはワタクシ一人が犠牲になればいいだけの事。ここで、ワタクシが王子様の気分を害する事をしたならば、ワタクシだけでない…ワタクシの家族や周りの方々にも被害が及びます。

…けれど、今回はわざわざワタクシの家まで訪ねていらっしゃり、ワタクシの家族まで巻き込みました。…流石に、やり過ぎです。

ワタクシだけならまだしも、ワタクシの家族まで巻き込むなど……っっっ!!

ワタクシ達だって、生きているのです。心があります。気持ちもあります。意思だってあります。

どんなに容姿が良くなくたって、勉強も運動もできなくたって、コミュニュケーションが苦手だって、貧乏だって…同じ人間なんです!”

って、泣いたんだ。今まで、笑顔しか見せてこなかった彼女が…」


…なっ!!?

根暗ブス!おまっ…!!?
自分が遊ばれてる事に気付いてたんかぁぁーーーーー!!!?

女の勘ってやつか?そうなのか?

女の勘、怖ッッッ!!!


…ゾッ…!


…けど、王族に逆らえないってのは…分かる気がするぜ?

俺も“王子の友達役”になりたくてなった訳じゃないし…

確かに、友達役に選ばれるってのは光栄な事だって分かってるけど、選ばれてからの周りの嫉妬やら媚び売って来るやつとか鬱陶しかったし

周りの反応と王子の顔色ばかり気にしなきゃいけない、王子には逆らえない

…そうなんだよなぁ〜、逆らえないんだよ

逆らえる訳がない

と、ゴウランが根暗ブスに同情した所で、タイジュはとんでもない話をまたぶっ込んできた。


「あと、これ知ってたか?
王子や姫達には“隠密”が付けられてて、王子や姫達の行動を漏れなく王や特定の上官達に報告されてるって事。」


…ドギィィーーーーーッッッ!!!?

ま、マジで!!?

って、事はプライベートもクソもなく、何もかもが王様達に筒抜けだったって事かぁぁーーーーー!!!!??

最悪じゃないか

マジかよぉ〜

嘘だろぉ〜…


「ハハッ!その様子じゃ、ゴウラン君も知らなかったみたいだな。
俺も彼女に言われるまで、ずっと気づかなかった。自分の素行がバレバレだってのに、自分では上手く隠してるつもりになって表では優等生ぶってたんだ。…すっげー、恥ずかしい話だよな。…マジで。」


ゴウランは、ビックリし過ぎて何も言えず固まってしまっていた。

…って、は?

根暗ブスに言われるまで、隠密の存在に気づかなかったって…

なんで、根暗ブスは隠密の存在を知っていて、かつ、その隠密の業務内容まで知ってるんだよ!

なんか、おかしくないか?


と、ゴウランは、根暗ブスについて疑問だらけで混乱してしまった。


「…まあ、あくまで彼女の推測に過ぎないし、彼女オタクでさ。だから、妄想がだいぶ入ってると思う。…けど、聞いてて無い話じゃないなとも感じた。」

ファミリーの日に、見かけた時そうだと思ってたけど、やっぱ根暗ブス、オタクだったか!

何のオタクかは、分からないけど

だが、確かに言われてみればそうだ

王子や姫達ともなれば、地位が高くて好き勝手に贅沢できる

だけど、だからこそ

その分、それ以上に自分に課せられた責任も生まれてくる

…全然、そこまで考えた事もなかったけど

それに見合った仕事をして成果を出さなきゃいけないんだ


だから、王子や姫達の素行や本性。どんな風に過ごしているのか知る必要がある

知らなければならない

国のトップになるからには

自分は今の今まで、どうしてそこまで考えが至らなかったのだろう?


と、ゴウランは自分の至らなさと浅はかさに大きなショックを受けていた。
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