イケメン従者とおぶた姫。
「彼女に言われて初めて、自分の立場を考えた。そこで、ようやく気付いた事もあった。

それまで、俺は碌に何も考えないで、たまたま生まれた場所、生まれ持ったものがさも当たり前かのように調子に乗って周りを見下してた。それも、俺以外みんなゴミクズだ。周りの奴らは俺と同じ人間だとは思えなかった。

…って、より、それが当たり前過ぎて、そこまでも考えてもなかったって言った方が正解かな?」


…うわぁ〜

聞けば聞くほど最低だぁ〜

ドン引きじゃ足りないくらいドクズ王子だぁ〜

…ちょっと前までの自分見てるみたいで、胸が痛すぎる…もう、ヤダ…聞きたくない

と、タイジュの話を聞いていて、ゴウランは自分にも当てはまる事だらけで、タイジュが何か言葉を発するたびに大ダメージを食らっていた。


「彼女に、自分達の婚約が決まりそうだって報告に行って、彼女からの言葉を聞いて俺は大撃沈でな。どうやって、家に帰ったかも分からないくらいショックを受けてた。

気がついたら、出かけた服のまま部屋の窓からずっと外を眺めてたよ。そして、外が真っ暗になった時、ようやく今日の事を思い出して頭の中で整理し始めた。

思い出して、彼女の言った意味を考えては、今までの自分の行動を思い返していた。

だけど、表向きは理解したつもりでも、中身はまだ自分のどこが良くないのかイマイチ分からなかった。」


…あ、でも表面上でも理解だけはしたんだ

それだけでも、優秀じゃん

俺は、自分を見つめ直そうと思った最初あたりは、自分のしてきた事を理解しようとも思えなくて反発ばかりしてたからな

…自分のしてきた事を思い出すだけで、あまりにみっともなさ過ぎるし、認める事も受け入れる事もできなかった

今でも、自分のしてきた酷い行いは思い出したくもないし、目を閉じ耳を塞ぎたくなるとゴウランは心が重苦しくなっていった。


「けど、彼女が俺との婚約を喜ばないなんて、どうしても納得できなかった。
自分で言うのもなんだけど、それくらいに俺は自分に自信があった。それに、彼女に会って色々と図星つかれても、そんな筈ないって現実として受け入れられなかったから。
だから、護衛の一人を呼びつけて彼女について調べてもらった。そしたら…」


…今度は、何があったってんだよ

もう、勘弁してくれよ

と、ゴウランは遠い目をしながらタイジュの話を聞いた。


「彼女、俺が帰ってから、かなり荒れてたらしい。

“あんの、クズ王子!マジで、有り得ませぬぞ!!いい加減にしろってぶん殴ってやりたいでありますな。

はあぁ〜〜っっ!!これだから、現実の人間は嫌であります。汚い、ゴミカス共しかおらんのですか!…まったく!!

それに比べて、アニメや漫画の主人公達は裏切りませぬ。そりゃ、ジャンルや作者によっては、最低最悪な胸糞ヒロインやヒーローもおりますが…それは見ないから良し!!

自分好みのアニメは漫画は、ワタクシの癒しであり生きる糧…ああ、この名作を生んで下さった作者様…推しのヴィルヘルム様!!サイコー…

今日の嫌な事は忘れて、今日はとことんゲームでバッタンバッタン敵をぶっ倒して鬱憤を晴らしますぞ!こんな嫌な日は、無双系が最強であります!ヒャーハッハッハ!!
あんのクソ王子!くらえっ、クズ王子め!!どうだ、恐れいったか!調子ブッこきやがって、このクズ!最低最悪のクソカスがぁぁーーーッッッ!!!

って、敵をおれに見立ててゲームに熱中してたみたいだ。

それは、置いといて。そこで初めて、俺は彼女によく思われてない事がよぉ〜く分かった。

もの凄い雷に打たれた気持ちになったな。」


…ハ…ハハ…

そりゃ、相当嫌われてるな

確かに、考えてみりゃ人がどう思ってるかなんて中身まで分からないか…

そこまで、人の事考えた事なかった

…怖っ…!


「彼女の件があって、人間不信になり掛けてな。自分の周りとか悪友達、騙して遊んだ奴らの事も調べさせたけど、やっぱりっていうのか、俺を含めて単に性格がもの凄く悪いクズなだけの奴らがほとんど。

…ただ、中には家庭環境が悪かったり周りに恵まれなくてグレざる得ない、無理矢理その世界に連れて来られた奴とか。自分じゃ、どうしようもできない複雑で色んな事情を抱えた可哀想な奴もいた。
そんな酷い状況や環境の中、行き場もない可哀想な奴らを何人か騙した事があったって知った時は、クズな俺でさえ心が痛んだしなんて事してしまったんだって酷く悩む日々もしばらく続いた。

ただのクズは、覚えてるだけ無駄などうでもいい奴らだから気にしてない。」


…なかなか、ヘビーな話だ

確かに、色んな奴がいて色んな事情を抱えてるんだろうけど

ただのクズって…う〜ん…その考えもどうかって思うけど、どうしようもない奴って居るっちゃいるけど…う〜ん…

と、脱クズを目指しているゴウランは複雑な気持ちになっていた。


「でも、俺の身辺を調べさせても俺の中身を見抜いてる奴は居なかったみたいだ。その報告を受けて、心底ホッとしたのを覚えてる。

ただ、一番知られたくない彼女や王様、上官といった人達には、俺の素行や裏の性格がバレバレだって事にはかなり頭を抱えてる。」


…だろうな

俺も、かなりのダメージ食らってる

ああ、だからかぁ…

聖騎士団長様の意味深な言葉とか…よく考えたら、直ぐに分かるような事ばかりだったじゃないか

聖騎士団長様は、俺達みたいなクズヤロー達にでさえ慈悲をかけて寛大な心を持って何回もチャンスをくれてたんだ

今さらだけど、遅いかもしれないけど

そんな事にも気付けず、俺は……

ハア…ショックだ…

自分の馬鹿さ加減が嫌になる

と、ゴウランはようやく、ハナの気持ちと優しさに気がつく事ができたのだった。

そして、同じチームのミオが、いち早くその事に気付いていた事に負けてしまった気がして凹んだ。


しかし、ここでゴウランは思った。


…あれ…?

「…失礼な事言ってしまったら、すみません。
タイジュ王子の容姿が以前社交界で見かけた時と随分変わった様に感じたのですが…」

と、ゴウランは、そういえば見た目変わってないか?と、思いつい聞いてしまったのだ。

なんらかのパーティーやら社交界、城内で見かけた時のタイジュは、あまり目立たないが品を感じさせる服をピシッと着こなし、
髪型もピッチリと寸分の乱れもない様な九一分けにセットしていて、漫画にでも出てきそうないかにも優等生と言った感じであった。

だが、今は髪を固める事もなく自然体だし、少し大人びたキレイめファッションも少し垂れ目がちなセクシー系のタイジュによく似合っていた。

同じセクシー系でも、ヨウコウはいかにもブランドといったド派手な服とアクセサリーを好み、容姿とファッションが合ってないとここで初めてゴウランは思った。

それくらいに、タイジュは自分の容姿を把握していてセンスも良かった。


「そんな愚かな俺だからさ。いつ、切り捨てても切り捨てられてもおかしくない上辺だけの浅い友達しかいないし。

…彼女と関わる様になって、ようやく色々と考えるようになった。そして、こんな自分は嫌だ、このままじゃ碌な未来にならないって初めて将来について真剣に考える事ができた。

そりゃ、その前も未来や将来の事は考えてた。けど、違う。それまでは、ただただこのまま順調に今まで通り上手くやれるだろう。

今の地位があるし、周りを欺いて評価を得て自分に合ったいい職に就ける。
そして、今までと変わりなく裏で思い切り遊べばいい。簡単だなって、ちゃんと考えてたつもりだったし実際出来る自信はある。

…けど、そうじゃない。」


……ハイハイ。

自分はできる自慢な

ムカつくけど、確かにタイジュ王子なら絶対と言っていいほど将来が約束されてるもんな

それだけの周りからの信頼と実力もある

あと、見た目だけでも周りの反応は全然違うからな。加えて、イケメンだってのに

けど、違う、そうじゃないって、どういう事だ?それ以上何が欲しいってんだか

欲張り過ぎじゃないか?

と、ゴウランは、しらけた気持ちで美男美女だらけで有名な商工王国、王子、姫達のうち一位、二位を争う程の美貌の持ち主を見ていた。


「そして、俺はファーマメント高校へ入学して初めて挫折を味わった。
そこに同年代の天才二人がいた。二人はそれぞれ別の大学だったみたいだけど、小学生の時には飛び級で世界有数の名門大学、大学院と主席で卒業したみたいだ。

そんな超天才がこの高校に入った理由は、同年代の子達と一緒にコミュニュケーション能力を身に付けさせる、友達を作ってその時期にしかできない青春を謳歌してほしいという保護者の願いによって無理矢理入学させられたらしい。」


…う、うげぇっ!!!?

ファーマメント高校って、国内一の難関高じゃん!超エリート高!!

てか、世界的に有名な大学だぁあ⤴︎!?

…はぁあ⤴︎!!?

飛び級で小学生の時には世界的に有名な大学院まで卒業だと???しかも、主席ってどんな頭脳してんだよ!?

頭脳とは限らないか…超天才魔道士とか???

それにしたって、はぁあ⤴︎

そんな嘘みたいな天才、存在すんのかよ!?


「一人は、ずっと魔法衣で全身、顔までも隠してたから姿は見る事はできなかったけど、仕草や動きが洗練されてて品の良さを感じたよ。

だから、地位は高いが身分を隠して入学してきたんだなって思った。けど、周りの人達はそんな事も考えもしなかったみたいで、全身魔法衣で隠してる彼を不気味がって近付こうともしなかった。

名前は、多分偽名だけど“ジーニアス”。

そして、もう一人は何ら自分を隠す事なく普通に授業を受けてたな。ただ、周りに一切の関心がなく無表情、無感情。誰も俺に近づくなって凍り付くような雰囲気でさ。

怖くて、誰も近づけないし顔もまともに見れなかったな。

まともに見れないのは、もう一つ理由があってその人は同じ人間とは思えない程、この世の者とは信じられない程の美貌の持ち主だったから。

まともに彼を見て、腰を抜かす人達も少なくなかった。中には、興奮のあまり失神する人さえいたよ。

だから、それに頭を抱えた学校側が保護者の人と相談して、その美貌者に顔の大部分が隠れるような大きなマスクをさせた。

彼の名前は“サクラ”。

そのあり得ない美貌と人間味のなさで、周りから“宝石人形”“冷血王子”なんて呼ばれてたな。」


と、聞いて、ゴウランは腰を抜かす程驚いた。

…さ、サクラァァァッッ!!!?

お前かよ!!

妙に納得できちまったぁぁ〜〜〜!!!

…はあ、そりゃ

そんな規格外が、二人も同じ高校しかも同学年だったりしたら、今までの自信も何もかもガラガラに砕けてしまうよな

けど、心配しなくていい

アイツが規格外の化け物なだけで、タイジュ王子はちゃんと優秀者だと思うぜ?

なにせ、あの超エリート高に合格できたんだからな

俺も学力とか、結構自信はあるけどファーマメント高校は絶対に無理だ

あそこは、何もかもにおいてレベルが違い過ぎる。そこに、入学できたタイジュ王子も桁外れにスゲーよ

ただ、サクラと比べちゃダメだ

サクラは、もはや人間じゃないと思う…思いたい。そうでなきゃ、自分が悲しくなるし、めちゃくちゃ惨めになる


「二人は、他の生徒達の自信を失わせるからという理由から、テストは無し、体育とか魔導の実習は見学になってたな。
お陰で、俺は学年でトップをとる事ができたけど、一位を取っても二人の存在があったから取った気がしなかったよ。」


…うっわ!マジかよ…

超エリート高で、テストで一位取るとかどんだけ凄いんだよ!

ってか、本当、規格外は気にするだけ無駄だから気にしちゃ負けだぞ


…ん?

あれ?なんか、根暗ブスの話から脱線してないか?根暗ブスの話したくて、俺と話してるんじゃないのか?

と、ゴウランが疑問を感じていると


「この二人の存在で、俺は人生で初めてに挫折を味わった。かなりの衝撃を受けたよ。

そして、今まで自分は天才だって疑わず調子に乗って、自分以外の人達を身下してた事が無性に恥ずかしくなった。

それから、色々あってな。更に長くなってしまうから割愛するけど、あまりのショックに俺は不登校になって引きこもってしまった。

だって、そうだろ?

今まで、自分は何でも完璧にこなして周りからチヤホヤされてたし、見た目も良かったからモテにモテた。

それを全部、サクラとジーニアスに持っていかれた気がした。」


ゴウランは、サクラなら分かるけど何故ジーニアス?

ジーニアスは、魔法衣で全身…顔までも隠してたんだろ?周りに不気味がられてたんだったら、モテるどころか嫌われてただろ?

と、不思議に思っていた。

そんなゴウランの心の中を見透かしたように、タイジュは少し苦笑いして言った。


「確かに、ジーニアスは魔法衣のフードで顔まで隠してたせいで周りから“不気味”“化け物”“気持ち悪い”って、嫌煙されてた。

だけど、天才のサクラとジーニアスを意識して見てた俺は知ってる。
たまに、ジーニアスの顔の一部が魔法衣のフードからチラッと見える事があるんだ。それは、口だったり、鼻だったり、目だったり。

頭の中でそのパーツを組み合わせた時、サクラと同等のとんでもない美貌が想定できた。

つまり、そういう事だって思った。自分の美貌を隠す為にわざと魔法衣で全身を隠してるんだってな。」


…は?

サクラの他に、同等の美貌の持ち主って…嘘だろ…オイ…誰か、嘘だと言ってくれ!

…うわぁ…

そりゃ、自分に自信失って当たり前だ

だけど、よく考えたらその二人が別次元なだけなんだけどな

けど、当たり前のように、そこにそんな二人が居たら…そうなりよなぁ…

…キッツ…!


「学校を休んで3日くらい経った頃かな?
こんなに学校休んだ事なかったなぁとか考えながら、家にも居たくなくて変装して公園のベンチでボー…っとしてた。

するとさ。公園を通りかかった彼女が、俺の存在に気付いてかなり驚いたらしくビクッと肩が飛び上がってたよ。

今の今まで、変装なんて見破られた事なんてなかったのにだぜ?

だけど、自分は知りません。関係ありませんとばかりにスルーするもんだから、つい彼女を追いかけて肩を掴んだ。

そして、聞いたんだ。“俺が誰だか知ってるんだろ?”って。
そしたら、彼女は知らぬ存ぜぬを貫いてたけど、彼女が俺の正体に気付いてる事は分かってるって変装の一部を解いて見せてようやく彼女は観念した。

やっぱり、気付いてたんだって驚きもあって、帰ると聞かない彼女をいいように言いくるめて公園のベンチに座らせてあれこれ聞いたよ。

そしたら、ビックリな回答が彼女の口から飛び出してきた。」


…え…?

ちょっと気になるけど、公園にいてたまたま根暗ブスに会ったって事?

本当に、たまたまか?

そもそも、たくさんあるうちの公園の中でよく根暗ブスと会えたな


「俺が変装して城外に出て、悪い遊びをしてた事を彼女は知ってたんだ。しかも、最初から。

理由を聞いたら、見た目だけじゃ分からないし魔道具を使ってるのか分からないけど声も全然違ってたけど、仕草や行動が俺そのものだったって。

なにせ、城外に出て遊ぶ前から彼女を揶揄って遊んでたから。そこで彼女は、俺の癖や動き、遊びのパターンとか知ってたから嫌でも分かってしまったらしい。」


…ま、マジかよ

それじゃ、根暗ブスの中でのタイジュ王子の印象はマジで最低最悪のクズだな

あちゃぁ〜〜〜


「知ってた上で、彼女は俺のお遊びに付き合ってたんだ。それは、単に彼女が人に強く言えない弱気な人だったし、俺が王子だって事で機嫌を損なうと自分だけでなく家族や親族まで巻き込んでしまう恐れがあったから騙されたフリをしてただけ。

そうとも知らず、俺と悪友達は彼女が騙されてるって疑わず、こんなにコロッと騙されて馬鹿な根暗ブスだって嘲笑ってたんだよな。」


…けど、それにしたって、その根暗ブス…かなりの洞察力と推察力じゃないか?

城の兵達ですら、欺いてきた名俳優のタイジュ王子だぜ?

それを見破るとか、普通に考えてあり得なくないか?

それに、タイジュ王子が外で悪い遊びしてる事をどうやって知ったんだ?

と、いうゴウランの疑問はポロリと口に出ていたようで


「…ああ、それは俺も分からない。分からないけど、彼女は兄に聞いたって言ってたな。
多分、クラブか何処かで変装した俺を見かけた事があるか…或いは…」

そう言って、それ以上タイジュは何も言わなかった。

と、いう事は国に関わる大事な裏家業をしている可能性がある。ならば、城に関わる者として、口に出してはいけない事だろう。

ゴウランも、その事についてはそれ以上聞く事はしなかった…というより、できなかった。


「彼女に俺の本性がバレちゃってた事を知った俺は開き直って、自分の話をしたよ。
今、ゴウラン君に話した内容な。加えて、俺の抱えてる葛藤やら挫折して登校拒否してる事まで話した。

彼女はそれを、ただ黙って聞いてたよ。
俺はそれが嬉しかった。彼女は俺を否定する訳でも肯定する訳でもなく、真剣に聞いてくれてた事にさ。」


…え〜〜?

普通、そこで慰めるくらいするだろぉ〜
コミュ障患ってるオタクには、それはハードル高すぎるか

それに、黙って聞いてたのは、王子から逃げられなくてどうしようもなかったからじゃないか?

俺は、気が利かない根暗ブスだって思うけどなぁ


「そして、彼女の事を何一つ知らないって事に気づいた俺は、俺だけ喋って不公平だって言って彼女の色んな話を聞いたよ。

アニメや漫画、ゲームが好きだって事。
友達が居ないって事。極度のコミュ障で、人間が苦手な事。

アニメや漫画が好きな理由は、裏切らないから。ジャンルや作者によっては、リアルな種類もあるらしいけど。それじゃ、夢も希望も無いから彼女は、リアルから遠のいた作品が好きらしい話とか。

世の中、裏切りや騙し合いばかり。そして、見た目や地位とかで差別がある。人が人を人として見てないってさ。

みんな、同じく生きてるのに。感情だってあるのに。どうして、こんなに差別だらけなのかって世の中に絶望してた時に、夢や希望に満ち溢れた漫画の世界を見てとても感動したんだって。

どんなに苦しくても辛くても、挫けそうになっても努力や頑張りでひたすら前を向く主人公の姿に感銘を受けて、自分も希望は捨てずにもう少しだけ人間を信じてみようかなって思えたって。

俺にとって、漫画やアニメって、何にも役に立たない下らないものってイメージあって。ダサいとか、オタク気持ち悪いとかそんな風にしか見れなかった。

けど、彼女の話を聞いていて、こんなにも人の心を突き動かしたり支えになる。中には、かなりの影響力があって漫画やアニメを見て有名になった人も多いって知った時はマジでビビった。

彼女が言うには、見方や角度で全然違って見えるものだと思うって言ってた。」


…実は、俺も愛読してる漫画があるけど、周りに漫画読んでるのがバレたら恥ずかしくて読んでる事隠してるんだよなぁ

それより、根暗ブスのいう角度って何だよ…マジで、おかしな事ばかり言う根暗ブスだな

聞いてる限り、根暗ブスはすっげー変わり者なんだろうな


「同じ物でも、人の見方や考え方で全然違うものに見えるんだろうってな。

彼女の話を聞けば聞くほど、俺とは全然違う概念だし趣味も何もかも違う。同じ人間かって思うくらい正反対に思ったよ。

でも、こんな考え方や捉え方があるんだって興味深くもあった。色々と俺とは違う彼女だけど、不思議と不快には感じなかったし、むしろ面白いとさえ感じた。

いつも、大人しくてオドオドしてるのに好きなアニメや漫画の話になると、人が変わったようにマシンガントークしてくるんだぜ?

彼女のあまりの熱の入りっぷりに圧倒されたけど、彼女の熱意とその時心が折れてて失意中だったって事もあって何気なく彼女がハマってるっていう少年漫画読んでみたんだよな。

そしたら、どハマリしちゃってさ。

あんだけ馬鹿にしてた漫画にだぜ?

そこで、色々考えさせられる事もあったし思う事もあって勇気付けられちゃってさ。学校に行くようになったし、彼女とメールとか電話するようになって俺の概念も変わっていった。

そして、俺には無いものを持ってる彼女、俺だけが知ってる彼女の良さに惹かれて彼女に見合う…彼女が心から惚れるようなカッコいい男になりたいって思う様になった。

そこから、悪友達とは縁を切って悪い遊びはしなくなったし、やろうとも思えなくなった。

そこからは精進の日々だ。

そうやって努力してたら心から信頼できる友達もできたし、充実した毎日を送れるようになったよ。もちろん、その中でも嫌な事とか上手くいかなくてムシャクシャする事、色んな悩みができたり色々あるけどさ。

それでも、今、凄く楽しいな。」


心から楽しそうに話すタイジュに、ゴウランは正直羨ましく感じていた。

自分もいつか、タイジュ王子のように真っ直ぐ前を向いて歩いていけるようになれるのか?
心が満たされる事ってあるんだろうか?
本当の友達って、どういうものなんだろう?

とか、色々考えていた。

そして、タイジュから思いがけない言葉が出てきた。


「あのさ。いきなりで、かなり困惑すると思うけど。俺、ゴウラン君と友達になりたいんだよな。ゴウラン君が変わったって噂を聞いて少し気になっていたんだ。そして、実際会って話を聞いてそう思った。

あと、俺の親友とも気が合いそうだから、後で会ってほしいな。」


なんて言われて、あれよあれよという間にお互いの連絡先は交換されてて二人は友達になったのだった。

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