イケメン従者とおぶた姫。
コウの怒りによって、もしも玉は壊され“もしもの世界”は強制終了された。
そして、眠りから覚めたショウ達は、夢の内容が鮮明に記憶に残っていて、チョッピリ複雑な気持ちになっていた。
…最終的に、未遂ではあるがエッチな事が始まろうとしていたから。それを考えると
…気恥ずかしいやら、照れ臭いやら…なんだか、とっても変な気持ちになっちゃって
ショウ達は、目線を逸らすやら視線を下に向けるやらでお互いの顔が見れずいた。
そういえばだが、もしもの世界に意識を飛ばされた時、何回かエラーが生じて無理矢理強行された事も記憶にある。
…ああ、だから曖昧にされ納得できない部分が多かったのかと、もしもの世界から戻ってきたサクラ達はかなり納得できた。
…けど、サクラとダリアは天守になれば当たり前に分かる“天守の常識”が所々欠落している部分がある。
今回、ダリアは“もしもの世界”で体験した事で、まさか…と思う事があった。
それは、サクラやロゼの様子を見ている限り当然の事の様だがダリアにとっては衝撃もいい所である。
それに、まだショウにさほど触れていなかったので気のせいだったかもしれないが…。
それに、あの時の気持ち…。きちんと確かめたいとダリアは考えていた。
もしもの世界でのダリアは、自分達が聞いたダリアと異なる事にオブシディアンとフウライはもちろんだが、報告を受けたリュウキも驚いていた。
サクラなんて、あんなダリアなんて知らないとばかりに驚きの表情を隠せていなかった。
自分とショウ以外に対しての、どうでも良さ命を命とも思っていない残虐性は見受けられるものの性の乱れやショウに対する態度が全然違っていた。
…いや、ショウに対する態度も改まってきて微弱ではあるが変化しつつあったように見えた。
それは、単に“もしも玉”が、単なる都合の良いように見せるだけの、例えば夢の中にいるように見せるだけの代物なのか。
ただの不良品か。
コウが、何処かの魔具屋で珍しい魔道具を買った或いはダンジョンで珍しい魔道具を見つけた。
他にも色々考えられるが。
ここで、オブシディアンやフウライ、リュウキは、ある可能性が見えて“もしも玉”で、それを確かめてみたいと思った。
だが、残念な事に一度使用したもしも玉は消えて無くなるようだ。現に、コウが怒りでもしも玉を壊したら、もしも玉は跡形も無く消えてしまったのだから。
リュウキの命令で、コウがまだもしも玉を隠し持っているかフウライは自白魔道を使い自白させたが、コウの言っていた通りコウはもしも玉を二つしか持っていなかったらしい。
二つ盗むだけでも、命懸けでむしろ二つ盗む事のできた自分を褒めてほしいような話もしていたので、悪い事ではあるが相当な苦労の末手に入れたものだったという事だけは分かった。
結局、窃盗罪で一番重い極刑が決まり、人間にされた挙げ句この世界に落とされてしまったのだが。
しかし、もしも玉があればとフウライ達が思っていた所に
“……おい。”
と、ダリアが、この中で一番理解力のありそうなフウライとオブシディアンを見て声を掛けてきた。光の玉で目もついてない筈のに、視線を感じたフウライとオブシディアンはダリアを見た。
“…さっきの、もしもの世界…あれはマジもんだった。もし、あの状況なら自分達はどうなるか。そこで、オレ様は自分の気持ちが分かりかける入り口で、元の世界に戻ってきちまった。
だから、知りたい。…あの時、感じた気持ち…。オレ様がいつも抱えている腹の底から煮えくりかえるように、むしゃくしゃしてイライラする正体。
設定次第で、分かる気がするんだよ。”
と、話してきた。
その考えは、オブシディアン達も同様だったようで同意を込めて、フウライは頷き
「…しかし、確かめようにも“もしも玉”はもうない。あれは、俺達が作れる様な代物でない。もしもだ、この世界の最高峰の技術者や一流の魔道士達が全員集まったとしても作れる様な代物でない。実際にもしも玉を見てそう思った。」
と、淡々としつつも残念そうに横に首を振った。しかし
“…不完全だが、あるぜ?”
そう、ダリアが言ってきたのだ。
何を言ってるのかと、みんなダリアに注目するとおもむろにダリアは“もしも玉”を出してきたのだ。
それを見て驚いた面々。
「…ま、まさか、お前ももしも玉を盗んだのか?そもそも、もしも玉という魔道具の存在はは候補者達に知らされてない筈!試験管しか知らない筈だ!!」
と、何故、ダリアがもしも玉の存在を知り持っているのかとコウは、心臓が飛び出る程にまで驚いた。
“そんなんあるなんざ、その当時は知らなかったぜ?
ただ、クソ女、テメーがもしも玉を出して説明してきた時に、面白そうなもん持ってんなって思ってよ。
もしも玉見て分析魔導、複製魔導で、おんなじもん作った。”
と、いうダリアの言葉に、みんな凍り付いた。コイツ…どれほどの能力や力を持っているんだと全身血の気が引く思いがした。
“…けど、残念な事にこのオレ様でも一個作るのがやっとだった。二度と作れる気もしねー。
しかも完全じゃねーし。
これに、オレ様とクソ猫の今持ってる全魔力を注がねーと起動しねー。
これ、100個作った奴…とんでもねーな。”
と、ダリアは言ったのだ。
みんな驚きで、固まっている中
『…王様より伝達です。この部屋に、ショウ様とダリア、フウライ様、ボクの4人が残る事。
他の人達は、この宿から出て王様達と合流する事。ロゼは、もしも玉起動の為に、魔力を注いでほしい。だ、そうです。』
そう、オブシディアンは言ってきた。
サクラとロゼは、ここに残ると駄々を捏ねたしロゼは、「何故にダリアなんかの為に全魔力を注がなければならんのじゃ!」と、プンプン怒っていたが
“……テメーなんかに頭下げんのも癪だが……力…クソッ…!貸せ…か、カシテクダサイ…クソッ!!”
自分以外みんな虫ケラ以下と皇帝気取りのバカ高いプライドの塊が、不本意であろうが言い方はムカつくが下手に出て頭を下げている(ように見える)。
それにオブシディアンに『ショウ様の為になるかもしれないんだ。頼めないか?』と、ショウの為だと言われると…ショウが関わるとロゼはとってもとっても弱かった。
そして、ダリアの作った不完全なもしも玉に、ダリアとロゼは有りったけの魔力を注ぐ。
注いでも注いでも無限に魔力を搾り取られ、自分達の魔力だけじゃ足りないのではという時に
それを察したフウライも、自分の魔力を注いでみた。
すると、ようやくもしも玉が使える状態になった。
その時には、ロゼもダリアも魔力切れでフウライもほぼほぼ魔力が残っていない状態だった。
グッタリと床に倒れ込む三人。もう、立ってられないし、眩暈や動悸息切れが激しい。
…ぶっちゃけ、もの凄くシンドイ、辛い。
そんなロゼに仕方ないとばかりに、サクラはイヤ〜な顔をしながら自分の魔力を半分程分けてやった。
フウライとロゼには、オブシディアンが『微々たる量で申し訳ありません。』と、二人に三分の一づつ魔力を分けた。
しかし…この、もしも玉…考えれば考える程、とんでもない代物だ。
だが驚くべきはダリアだ。二度と作れないと断言するダリアではあったが、もしも玉を分析魔導、複製魔導で不完全とはいえ作ってしまえた事に驚くしかない。
そして、部屋に4人を残し、後ろ髪を引かれる思いでサクラ達は宿を出るのだった。
本来なら、剣の天守であるロゼ、盾の天守(仮)のサクラもこの行く末を見届けなければならのだろうが…ショウの事を恋愛対象に見ていて愛の重い二人が我慢して見てられると思えなかった。
おそらく、もしもの世界に行った二人を見て、始まった序盤から嫉妬或いは怒りに狂い、コウのようにもしも玉を壊されてしまう恐れが大きかった為、強制退場となった。
そして、ダリア本人でさえ分かってないダリアの本当の気持ち。本当は何を願い、ショウとどういう関係でありたいのか知る為に
リュウキとフウライ、オブシディアンで、知恵や推測など有りとあらゆる可能性などを考察し捻りに捻って絞り出した設定をした。
設定内容は、サクラの生い立ちの経験をダリアにさせる事。
つまり、ショウが赤ん坊の頃に5才のダリアが、ショウ専属従者になる。そして、ショウが天、自分は天守だと曖昧だが覚えている。
前々世は神獣、前世は光の玉と、前世も前々世もサクラと同じ立ち位置に設定にした。
それで、どんな結果が出るのか。
【もしも、サクラの生い立ち、ダリアバージョンだったら〜主人と専属従者〜】
ーーーカイマクーーー
ダリアは生まれる前から、現在の母親になる女性の体内から外の様子を窺っていた。と、同時に自分の命より大事に我が愛しい“天”の居場所も把握していた。
まだ、“我が天”はこの世に誕生していないらしい。だが、天の体を作り産む存在は複雑な状況下にあり離れているらしいが…どうしたものか。運命の引き合わせる力で、いずれ出会う事を祈るしかない。
どうしても無理な時は、自分が動く他ないとダリアは考えていた。
そして、母親の体内で何日か掛けて自分の置かれている状況を把握できた。
自分は、魔導とは別の体術・波動を得意とする空の精霊王国の第118皇子。
空の精霊王国は他の精霊王国に比べて美形が多いらしく、その中でも現空の精霊王はそれはそれはとても美しいらしい。
地位やその美貌を武器に、150人以上の側室や大勢の恋人達がいる。
空の精霊王国では王だけは、一夫多妻が許されているらしい。理由は単純で、より良い後継者が生まれる事を期待しての事だ。
その為、空の精霊王は子だくさんで、ダリアの上に117人も兄姉がいるようだ。
身分の高い正妻や側室達には、それぞれ宮殿が与えられており、恋人達は身分が低い為一緒の家には住めないが時々デートやお泊まりをして楽しんでいるらしい。
恋人達に子供ができると、仕方ないので妾として迎え入れ、正妻や側室達が怒ると厄介なので、わざと彼女達の宮殿よりずっと劣る宮殿と土地を与えている。
だが、身分の関係で妾になった恋人達の子供には王位継承権がない。
ちなみにダリアは、運がいいのか悪いのか爵位の低い側室の第12子として生まれる予定だ。
どうも、この側室。王様と子供ができやすい体のようで本人も参っていた。子供を作るだけなら相性抜群であった。
「…はぁ〜。王様の気が向いてこっちに来る度に、子供ができちゃうとか…出産シンドイのに…はぁ〜。何回も通ってるのに、できない人達も多いのに、どぉ〜して自分だけ。
避妊してるのにぃ〜!もう、産むの嫌だから今回は飲み薬とアレで完璧だと思ったのにぃ〜。
…生まれてくる子に罪は無いけど、ハァ〜…」
と、ボヤいていたが…出産は壮絶だって話を聞いた事がある。それを11回も…そりゃ、愚痴りたくもなるとダリアは、この母親に少々同情した。
だって、この側室…別に王様の事が好きな訳ではないし、他に好きな男性がいたらしいが
その男性には恋人がいてラブラブだった為、自分の気持ちを伝える事もなく家の為に側室として政略結婚させられたようだ。
…まあ、それはさて置き。
実は、自分がこの側室の胎内に身を宿した時、少々厄介な事になっていた。
胎児がいるか診察しにきた医師は“あまりにも、力が強大過ぎる”と、驚き冷や汗をかいていた。
まあ、オレ様だし?当然だと思っていたが、次の言葉を聞いてオレ様は焦った。
“…ワタシの見誤りかもしれません!もし、ワタシの見立て通りであれば一大事でございます!”
“…え?どういう事ですか?何があるというんですか?”
と、母親と医師と会話を聞いて、あまりよろしくないと直感が働きまだ人の形にもなっていないダリアだったが、慌てて懸命に自分の力を隠す術を施した。
“はい、側室様。昔、王族にあった話です。
元々、王族は他の者達より優秀で強い力を持って生まれるのが常識です。
…ですが、過去あまりに強大な力を持った赤子が生まれました。ですが、この赤子の危険性を考え赤子を封印の間という部屋に閉じ込める事になったそうです。”
“…え?”
“恐ろしい力を持っている為それを恐れはせど、命に罪は無いのです。ただ、その赤子の力が恐ろしい。だから、閉じ込めました。
赤ん坊は、成長する度に力も強大になっていき、それをますます恐れた王達は強力な鎖でその皇子を繋ぎ一生その部屋から出られないようにしたんだとか…”
“…そ、そんな酷い…!”
と、話が進み、母親が“この事は秘密にしてほしい”とお願いするも、医師は“危険性のある赤子の可能性がある”と、王に報告。
即座に、国の実力者達を集め
母親の胎内にいるダリアについて調べた。やめて!!と泣き叫び暴れる母親は、強制的に眠らされた。
ー結果ー
“全然、大丈夫ですね。至って普通のお子さんです。”
“ああ。胎児としては王族の中でも上位レベルだが、どこをどう調べても優秀な胎児がいるだけだ。”
“これは、生まれてくるのが楽しみだのぉ。”
と、優秀な胎児で、危険性は全くないと判定された。
これを聞いて、ダリアはホッとした。
全くないってのも、おかしな話だろうしほんのちょっと力を残して後は隠した。
結果、こんな感じだった。少し誤算があるとすれば、ほんのちょっとと自分が思っていても周りにとっては上位レベルだったらしい。
…危なかった。自分を良く見せたくて、もうちょっと力を残すか迷っていた所だった。
こうして、ダリアは生まれたら“封印の間”という部屋という名の牢獄に、閉じ込められず済んだ。もし、力がバレていたら、速攻“封印の間”行きだっただろう。
危ない、危ない!
とんでもない目に遭う所だった。と、ダリアは内心ヒヤリとしていた。
“オレ様の天”が誕生した瞬間、こことはオサラバするのは当たり前として。問題は天が生まれるまでの間だ。
それまで、周りの様子を見ながら出来る訳でもなく出来ない訳でもない極々平凡を装って、当たり障りなく過ごそう。
そして、その時が来たらオレ様の存在をこの城内の奴ら全員の記憶から消せばいいだけだ。
天は、精霊の国と呼ばれるこの国の裏の世界とやらに誕生する気配がする。あと、いい情報も聞けた。
どうやら、各王国の王達は“裏の世界へ行き来出来る鍵”の複製を所持してるらしい。
本物は、この城では宝部屋と呼ばれる宝石や高級品などの宝を保管する部屋にあるらしい。
それを複製魔導を使って作ればいいな…今のオレでできるか心配だが…魔導の鍛錬をすれば何とかなるか?
どうも、オレ様は魔導は得意だが波動はイマイチで…
波動の上級者の中では、瞬間移動できる奴もいたっぽい伝説はあるらしいが…
波動と合わない自分には…ムカつくが、どうあがいても無理だ
…それに、オレ様と波動の相性が悪すぎて、
オレ様本来の魔力と新しく備わった波動がぶつかり合って相殺されてやがる!
以前のように、魔導をまともに使いこなせねーなんて最悪もいい所だ
…クソッ!
せめて、波動使い以外の所に生まれてたら全然違ってたってのに!
そんな風に色々考え計画し、ようやく誕生したダリアにみんな息を呑んだ。
「…な、何と美しい…!!」
「この様な美しい赤子を目にする事ができるなんて…!」
と、何処へ生まれても、想像を絶する美貌に生まれてしまうダリアはこの反応は慣れっこだったし。
中途半端な美貌、自分の物にしてしまいたい美貌などではなく
ダリアの美貌というのは、どんな相手も跪かせ屈服させてしまう、そういう美しさなのだ。
この世とは思えぬ美貌のダリアは恐れ多すぎて、ダリアにイタズラしようなどする悍ましい輩はおらず
これはこれで問題ではあるが、ダリアを神か絶対王者の様に崇拝し崇め貢ぎに来る者、奴隷にしてくれと頼み込んで来る変態など後をたたなかった。
赤ん坊、幼児にこんな感じなのに、もっと成長したら…そう考えるとダリアは、ウンザリし自分の美貌を隠す為
ワザと髪をボサボサにし、顔を隠しダサい服を着て過ごしていた。前々世や前世で、こんなに頑張った事がないってくらいガムシャラに魔導の修行に身を費やしながら。
その甲斐あって、自分の気配と姿を消す魔導で宝部屋に侵入し、“裏の世界へ行き来出来る鍵”の複製もギリギリ…できた。
多分、一回使用したら使い物にならないか…一回でも使えたらいいが、結局使えず仕舞いで終わるか…まだ、それならいいが。
最悪、移動中、鍵の効果が切れ或いは不完全なせいで空間に取り残され死んでしまうかだ。
…だが、これでいつ“天”が生まれても、もう大丈夫!あとは、自分が出来る限り…いや、それ以上の鍛錬をして天を守れる力を備えるのみ!
…ああ、早く会いたい…
オレ様の天
…ドクンドクン!
天の事を考えるだけで、気持ちが切なく締め付けられる。
天の事を考えない日はない。
早く天に会いたくて、ずっとずっとソワソワしてる。会いたいのに会えない今、凄く寂しくて胸にポッカリと穴が空いた気持ち。
生きてるのに、生きている意味を見出せない。
心は何処にいったのかという程の虚無感。
けど、いつか天が生まれてくる事だけは分かる。それだけを糧に、ダリア…現在空の精霊王国での名は“ 昊天(こうてん)”は、モチベーションを保ち修行に励む毎日を過ごしていた。
そして、コウテンとして生まれてから5年の月日が流れた頃、その時が来た。
…ドックン、ドックン!
誕生したのだ、天が!
その瞬間、ダリアは直ぐに行動した。
城内に居る全ての人達から、コウテンの記憶を消して“複製の裏世界へ行き来出来る鍵”を使い、天の気配のする場所へと行った。
もう、ドキドキが止まらない!
嬉しくて興奮のあまり、ドキドキが収まらない。
だが、ここで誤算が生じた。
波動と相性の悪いコウテンは、城内に居る全ての人達のコウテンの記憶を消しただけで相当なまでに魔力を消耗した。
尚且つ、複製の鍵も相当な魔力を使う代物だったらしい。
複製の鍵を使う前に、魔力が回復するのを待っていれば良かったものを逸る気持ちを抑えられず、天に会いたい気持ちばかりが先立ってしまったのだ。
…と、いうより、複製の鍵で魔力を使うとは思わなかったのだ。
激しい体力の消耗から、体はグッタリとし全身に力が入らない。空間移動したせいか呼吸も苦しい。過呼吸と体力の限界で意識も朦朧とし気を失いかけた時、何やらグッと腕を引っ張られた感覚がした。
そこで、一瞬だが意識が浮上し少しだけ状況が掴めた。自分は暴風雨が荒れくれる場所に倒れていたらしい。
…天の所に行けなかったのは悔やまれるが、天と同じ空間にいる事を感じ取るとちょっと失敗したけど成功かな?と、思ったが…
…ヤバい!
なんか、厳つい男に抱き上げられてる気がする。その男はしきりにコウテンに声を掛けるが、意識が遠のいていき聞き取れない。
…せっかく、天と同じ世界に来れたのに…
コイツ、ヤバい奴だったらどうしよう…
…天、どうしよう
会いたいよ…天…
と、コウテンは天を思い一筋の涙を流し、走馬灯の様に前世と前々世の記憶を思い出していた。
前々世は、あの偽天守のせいで神獣にされ遠く離れた国に飛ばされて散々な目に遭った
前世は、畜生どもの住まう穢い世界で紫の光の玉になっていて、周りから存在を認識されない物体となっていた。幸いだったのが、天だけはオレ様の存在を認識していてくれた事
そこでも、天は散々な目に遭い…見ていられないくらい酷いもんだった…本当に…。この時程、自分に実体がない事を悔いた事はなかった
もう、あんな苦しい辛い思いはしなくていい
…いや、本来はする筈じゃなかった!
オレ様が、もっとしっかりしていれば!
本来、天守であるオレ様が、天から離れず側にいてありとあらゆる災いから天を守り幸せにしなきゃなんねーってのに!
様々な障害によって、オレ様達は邪魔され引き離されてきた
…こうなったのも全て、オレ様の力不足…
全部オレ様のせいだ
だけど、今世は違う!
そして、ようやくここまで来た
…長かった、本当に…本当に…っ!
これからは、天守であるオレ様がいる
ずっとずっと離れず側にいる
絶対絶対、うんざりする程幸せでいっぱいにしてやる
そう思ってたのに
…せっかく、ここまで来れたのに…!
…クソッ!!
今度は何なんだよっ!!!
そして、眠りから覚めたショウ達は、夢の内容が鮮明に記憶に残っていて、チョッピリ複雑な気持ちになっていた。
…最終的に、未遂ではあるがエッチな事が始まろうとしていたから。それを考えると
…気恥ずかしいやら、照れ臭いやら…なんだか、とっても変な気持ちになっちゃって
ショウ達は、目線を逸らすやら視線を下に向けるやらでお互いの顔が見れずいた。
そういえばだが、もしもの世界に意識を飛ばされた時、何回かエラーが生じて無理矢理強行された事も記憶にある。
…ああ、だから曖昧にされ納得できない部分が多かったのかと、もしもの世界から戻ってきたサクラ達はかなり納得できた。
…けど、サクラとダリアは天守になれば当たり前に分かる“天守の常識”が所々欠落している部分がある。
今回、ダリアは“もしもの世界”で体験した事で、まさか…と思う事があった。
それは、サクラやロゼの様子を見ている限り当然の事の様だがダリアにとっては衝撃もいい所である。
それに、まだショウにさほど触れていなかったので気のせいだったかもしれないが…。
それに、あの時の気持ち…。きちんと確かめたいとダリアは考えていた。
もしもの世界でのダリアは、自分達が聞いたダリアと異なる事にオブシディアンとフウライはもちろんだが、報告を受けたリュウキも驚いていた。
サクラなんて、あんなダリアなんて知らないとばかりに驚きの表情を隠せていなかった。
自分とショウ以外に対しての、どうでも良さ命を命とも思っていない残虐性は見受けられるものの性の乱れやショウに対する態度が全然違っていた。
…いや、ショウに対する態度も改まってきて微弱ではあるが変化しつつあったように見えた。
それは、単に“もしも玉”が、単なる都合の良いように見せるだけの、例えば夢の中にいるように見せるだけの代物なのか。
ただの不良品か。
コウが、何処かの魔具屋で珍しい魔道具を買った或いはダンジョンで珍しい魔道具を見つけた。
他にも色々考えられるが。
ここで、オブシディアンやフウライ、リュウキは、ある可能性が見えて“もしも玉”で、それを確かめてみたいと思った。
だが、残念な事に一度使用したもしも玉は消えて無くなるようだ。現に、コウが怒りでもしも玉を壊したら、もしも玉は跡形も無く消えてしまったのだから。
リュウキの命令で、コウがまだもしも玉を隠し持っているかフウライは自白魔道を使い自白させたが、コウの言っていた通りコウはもしも玉を二つしか持っていなかったらしい。
二つ盗むだけでも、命懸けでむしろ二つ盗む事のできた自分を褒めてほしいような話もしていたので、悪い事ではあるが相当な苦労の末手に入れたものだったという事だけは分かった。
結局、窃盗罪で一番重い極刑が決まり、人間にされた挙げ句この世界に落とされてしまったのだが。
しかし、もしも玉があればとフウライ達が思っていた所に
“……おい。”
と、ダリアが、この中で一番理解力のありそうなフウライとオブシディアンを見て声を掛けてきた。光の玉で目もついてない筈のに、視線を感じたフウライとオブシディアンはダリアを見た。
“…さっきの、もしもの世界…あれはマジもんだった。もし、あの状況なら自分達はどうなるか。そこで、オレ様は自分の気持ちが分かりかける入り口で、元の世界に戻ってきちまった。
だから、知りたい。…あの時、感じた気持ち…。オレ様がいつも抱えている腹の底から煮えくりかえるように、むしゃくしゃしてイライラする正体。
設定次第で、分かる気がするんだよ。”
と、話してきた。
その考えは、オブシディアン達も同様だったようで同意を込めて、フウライは頷き
「…しかし、確かめようにも“もしも玉”はもうない。あれは、俺達が作れる様な代物でない。もしもだ、この世界の最高峰の技術者や一流の魔道士達が全員集まったとしても作れる様な代物でない。実際にもしも玉を見てそう思った。」
と、淡々としつつも残念そうに横に首を振った。しかし
“…不完全だが、あるぜ?”
そう、ダリアが言ってきたのだ。
何を言ってるのかと、みんなダリアに注目するとおもむろにダリアは“もしも玉”を出してきたのだ。
それを見て驚いた面々。
「…ま、まさか、お前ももしも玉を盗んだのか?そもそも、もしも玉という魔道具の存在はは候補者達に知らされてない筈!試験管しか知らない筈だ!!」
と、何故、ダリアがもしも玉の存在を知り持っているのかとコウは、心臓が飛び出る程にまで驚いた。
“そんなんあるなんざ、その当時は知らなかったぜ?
ただ、クソ女、テメーがもしも玉を出して説明してきた時に、面白そうなもん持ってんなって思ってよ。
もしも玉見て分析魔導、複製魔導で、おんなじもん作った。”
と、いうダリアの言葉に、みんな凍り付いた。コイツ…どれほどの能力や力を持っているんだと全身血の気が引く思いがした。
“…けど、残念な事にこのオレ様でも一個作るのがやっとだった。二度と作れる気もしねー。
しかも完全じゃねーし。
これに、オレ様とクソ猫の今持ってる全魔力を注がねーと起動しねー。
これ、100個作った奴…とんでもねーな。”
と、ダリアは言ったのだ。
みんな驚きで、固まっている中
『…王様より伝達です。この部屋に、ショウ様とダリア、フウライ様、ボクの4人が残る事。
他の人達は、この宿から出て王様達と合流する事。ロゼは、もしも玉起動の為に、魔力を注いでほしい。だ、そうです。』
そう、オブシディアンは言ってきた。
サクラとロゼは、ここに残ると駄々を捏ねたしロゼは、「何故にダリアなんかの為に全魔力を注がなければならんのじゃ!」と、プンプン怒っていたが
“……テメーなんかに頭下げんのも癪だが……力…クソッ…!貸せ…か、カシテクダサイ…クソッ!!”
自分以外みんな虫ケラ以下と皇帝気取りのバカ高いプライドの塊が、不本意であろうが言い方はムカつくが下手に出て頭を下げている(ように見える)。
それにオブシディアンに『ショウ様の為になるかもしれないんだ。頼めないか?』と、ショウの為だと言われると…ショウが関わるとロゼはとってもとっても弱かった。
そして、ダリアの作った不完全なもしも玉に、ダリアとロゼは有りったけの魔力を注ぐ。
注いでも注いでも無限に魔力を搾り取られ、自分達の魔力だけじゃ足りないのではという時に
それを察したフウライも、自分の魔力を注いでみた。
すると、ようやくもしも玉が使える状態になった。
その時には、ロゼもダリアも魔力切れでフウライもほぼほぼ魔力が残っていない状態だった。
グッタリと床に倒れ込む三人。もう、立ってられないし、眩暈や動悸息切れが激しい。
…ぶっちゃけ、もの凄くシンドイ、辛い。
そんなロゼに仕方ないとばかりに、サクラはイヤ〜な顔をしながら自分の魔力を半分程分けてやった。
フウライとロゼには、オブシディアンが『微々たる量で申し訳ありません。』と、二人に三分の一づつ魔力を分けた。
しかし…この、もしも玉…考えれば考える程、とんでもない代物だ。
だが驚くべきはダリアだ。二度と作れないと断言するダリアではあったが、もしも玉を分析魔導、複製魔導で不完全とはいえ作ってしまえた事に驚くしかない。
そして、部屋に4人を残し、後ろ髪を引かれる思いでサクラ達は宿を出るのだった。
本来なら、剣の天守であるロゼ、盾の天守(仮)のサクラもこの行く末を見届けなければならのだろうが…ショウの事を恋愛対象に見ていて愛の重い二人が我慢して見てられると思えなかった。
おそらく、もしもの世界に行った二人を見て、始まった序盤から嫉妬或いは怒りに狂い、コウのようにもしも玉を壊されてしまう恐れが大きかった為、強制退場となった。
そして、ダリア本人でさえ分かってないダリアの本当の気持ち。本当は何を願い、ショウとどういう関係でありたいのか知る為に
リュウキとフウライ、オブシディアンで、知恵や推測など有りとあらゆる可能性などを考察し捻りに捻って絞り出した設定をした。
設定内容は、サクラの生い立ちの経験をダリアにさせる事。
つまり、ショウが赤ん坊の頃に5才のダリアが、ショウ専属従者になる。そして、ショウが天、自分は天守だと曖昧だが覚えている。
前々世は神獣、前世は光の玉と、前世も前々世もサクラと同じ立ち位置に設定にした。
それで、どんな結果が出るのか。
【もしも、サクラの生い立ち、ダリアバージョンだったら〜主人と専属従者〜】
ーーーカイマクーーー
ダリアは生まれる前から、現在の母親になる女性の体内から外の様子を窺っていた。と、同時に自分の命より大事に我が愛しい“天”の居場所も把握していた。
まだ、“我が天”はこの世に誕生していないらしい。だが、天の体を作り産む存在は複雑な状況下にあり離れているらしいが…どうしたものか。運命の引き合わせる力で、いずれ出会う事を祈るしかない。
どうしても無理な時は、自分が動く他ないとダリアは考えていた。
そして、母親の体内で何日か掛けて自分の置かれている状況を把握できた。
自分は、魔導とは別の体術・波動を得意とする空の精霊王国の第118皇子。
空の精霊王国は他の精霊王国に比べて美形が多いらしく、その中でも現空の精霊王はそれはそれはとても美しいらしい。
地位やその美貌を武器に、150人以上の側室や大勢の恋人達がいる。
空の精霊王国では王だけは、一夫多妻が許されているらしい。理由は単純で、より良い後継者が生まれる事を期待しての事だ。
その為、空の精霊王は子だくさんで、ダリアの上に117人も兄姉がいるようだ。
身分の高い正妻や側室達には、それぞれ宮殿が与えられており、恋人達は身分が低い為一緒の家には住めないが時々デートやお泊まりをして楽しんでいるらしい。
恋人達に子供ができると、仕方ないので妾として迎え入れ、正妻や側室達が怒ると厄介なので、わざと彼女達の宮殿よりずっと劣る宮殿と土地を与えている。
だが、身分の関係で妾になった恋人達の子供には王位継承権がない。
ちなみにダリアは、運がいいのか悪いのか爵位の低い側室の第12子として生まれる予定だ。
どうも、この側室。王様と子供ができやすい体のようで本人も参っていた。子供を作るだけなら相性抜群であった。
「…はぁ〜。王様の気が向いてこっちに来る度に、子供ができちゃうとか…出産シンドイのに…はぁ〜。何回も通ってるのに、できない人達も多いのに、どぉ〜して自分だけ。
避妊してるのにぃ〜!もう、産むの嫌だから今回は飲み薬とアレで完璧だと思ったのにぃ〜。
…生まれてくる子に罪は無いけど、ハァ〜…」
と、ボヤいていたが…出産は壮絶だって話を聞いた事がある。それを11回も…そりゃ、愚痴りたくもなるとダリアは、この母親に少々同情した。
だって、この側室…別に王様の事が好きな訳ではないし、他に好きな男性がいたらしいが
その男性には恋人がいてラブラブだった為、自分の気持ちを伝える事もなく家の為に側室として政略結婚させられたようだ。
…まあ、それはさて置き。
実は、自分がこの側室の胎内に身を宿した時、少々厄介な事になっていた。
胎児がいるか診察しにきた医師は“あまりにも、力が強大過ぎる”と、驚き冷や汗をかいていた。
まあ、オレ様だし?当然だと思っていたが、次の言葉を聞いてオレ様は焦った。
“…ワタシの見誤りかもしれません!もし、ワタシの見立て通りであれば一大事でございます!”
“…え?どういう事ですか?何があるというんですか?”
と、母親と医師と会話を聞いて、あまりよろしくないと直感が働きまだ人の形にもなっていないダリアだったが、慌てて懸命に自分の力を隠す術を施した。
“はい、側室様。昔、王族にあった話です。
元々、王族は他の者達より優秀で強い力を持って生まれるのが常識です。
…ですが、過去あまりに強大な力を持った赤子が生まれました。ですが、この赤子の危険性を考え赤子を封印の間という部屋に閉じ込める事になったそうです。”
“…え?”
“恐ろしい力を持っている為それを恐れはせど、命に罪は無いのです。ただ、その赤子の力が恐ろしい。だから、閉じ込めました。
赤ん坊は、成長する度に力も強大になっていき、それをますます恐れた王達は強力な鎖でその皇子を繋ぎ一生その部屋から出られないようにしたんだとか…”
“…そ、そんな酷い…!”
と、話が進み、母親が“この事は秘密にしてほしい”とお願いするも、医師は“危険性のある赤子の可能性がある”と、王に報告。
即座に、国の実力者達を集め
母親の胎内にいるダリアについて調べた。やめて!!と泣き叫び暴れる母親は、強制的に眠らされた。
ー結果ー
“全然、大丈夫ですね。至って普通のお子さんです。”
“ああ。胎児としては王族の中でも上位レベルだが、どこをどう調べても優秀な胎児がいるだけだ。”
“これは、生まれてくるのが楽しみだのぉ。”
と、優秀な胎児で、危険性は全くないと判定された。
これを聞いて、ダリアはホッとした。
全くないってのも、おかしな話だろうしほんのちょっと力を残して後は隠した。
結果、こんな感じだった。少し誤算があるとすれば、ほんのちょっとと自分が思っていても周りにとっては上位レベルだったらしい。
…危なかった。自分を良く見せたくて、もうちょっと力を残すか迷っていた所だった。
こうして、ダリアは生まれたら“封印の間”という部屋という名の牢獄に、閉じ込められず済んだ。もし、力がバレていたら、速攻“封印の間”行きだっただろう。
危ない、危ない!
とんでもない目に遭う所だった。と、ダリアは内心ヒヤリとしていた。
“オレ様の天”が誕生した瞬間、こことはオサラバするのは当たり前として。問題は天が生まれるまでの間だ。
それまで、周りの様子を見ながら出来る訳でもなく出来ない訳でもない極々平凡を装って、当たり障りなく過ごそう。
そして、その時が来たらオレ様の存在をこの城内の奴ら全員の記憶から消せばいいだけだ。
天は、精霊の国と呼ばれるこの国の裏の世界とやらに誕生する気配がする。あと、いい情報も聞けた。
どうやら、各王国の王達は“裏の世界へ行き来出来る鍵”の複製を所持してるらしい。
本物は、この城では宝部屋と呼ばれる宝石や高級品などの宝を保管する部屋にあるらしい。
それを複製魔導を使って作ればいいな…今のオレでできるか心配だが…魔導の鍛錬をすれば何とかなるか?
どうも、オレ様は魔導は得意だが波動はイマイチで…
波動の上級者の中では、瞬間移動できる奴もいたっぽい伝説はあるらしいが…
波動と合わない自分には…ムカつくが、どうあがいても無理だ
…それに、オレ様と波動の相性が悪すぎて、
オレ様本来の魔力と新しく備わった波動がぶつかり合って相殺されてやがる!
以前のように、魔導をまともに使いこなせねーなんて最悪もいい所だ
…クソッ!
せめて、波動使い以外の所に生まれてたら全然違ってたってのに!
そんな風に色々考え計画し、ようやく誕生したダリアにみんな息を呑んだ。
「…な、何と美しい…!!」
「この様な美しい赤子を目にする事ができるなんて…!」
と、何処へ生まれても、想像を絶する美貌に生まれてしまうダリアはこの反応は慣れっこだったし。
中途半端な美貌、自分の物にしてしまいたい美貌などではなく
ダリアの美貌というのは、どんな相手も跪かせ屈服させてしまう、そういう美しさなのだ。
この世とは思えぬ美貌のダリアは恐れ多すぎて、ダリアにイタズラしようなどする悍ましい輩はおらず
これはこれで問題ではあるが、ダリアを神か絶対王者の様に崇拝し崇め貢ぎに来る者、奴隷にしてくれと頼み込んで来る変態など後をたたなかった。
赤ん坊、幼児にこんな感じなのに、もっと成長したら…そう考えるとダリアは、ウンザリし自分の美貌を隠す為
ワザと髪をボサボサにし、顔を隠しダサい服を着て過ごしていた。前々世や前世で、こんなに頑張った事がないってくらいガムシャラに魔導の修行に身を費やしながら。
その甲斐あって、自分の気配と姿を消す魔導で宝部屋に侵入し、“裏の世界へ行き来出来る鍵”の複製もギリギリ…できた。
多分、一回使用したら使い物にならないか…一回でも使えたらいいが、結局使えず仕舞いで終わるか…まだ、それならいいが。
最悪、移動中、鍵の効果が切れ或いは不完全なせいで空間に取り残され死んでしまうかだ。
…だが、これでいつ“天”が生まれても、もう大丈夫!あとは、自分が出来る限り…いや、それ以上の鍛錬をして天を守れる力を備えるのみ!
…ああ、早く会いたい…
オレ様の天
…ドクンドクン!
天の事を考えるだけで、気持ちが切なく締め付けられる。
天の事を考えない日はない。
早く天に会いたくて、ずっとずっとソワソワしてる。会いたいのに会えない今、凄く寂しくて胸にポッカリと穴が空いた気持ち。
生きてるのに、生きている意味を見出せない。
心は何処にいったのかという程の虚無感。
けど、いつか天が生まれてくる事だけは分かる。それだけを糧に、ダリア…現在空の精霊王国での名は“ 昊天(こうてん)”は、モチベーションを保ち修行に励む毎日を過ごしていた。
そして、コウテンとして生まれてから5年の月日が流れた頃、その時が来た。
…ドックン、ドックン!
誕生したのだ、天が!
その瞬間、ダリアは直ぐに行動した。
城内に居る全ての人達から、コウテンの記憶を消して“複製の裏世界へ行き来出来る鍵”を使い、天の気配のする場所へと行った。
もう、ドキドキが止まらない!
嬉しくて興奮のあまり、ドキドキが収まらない。
だが、ここで誤算が生じた。
波動と相性の悪いコウテンは、城内に居る全ての人達のコウテンの記憶を消しただけで相当なまでに魔力を消耗した。
尚且つ、複製の鍵も相当な魔力を使う代物だったらしい。
複製の鍵を使う前に、魔力が回復するのを待っていれば良かったものを逸る気持ちを抑えられず、天に会いたい気持ちばかりが先立ってしまったのだ。
…と、いうより、複製の鍵で魔力を使うとは思わなかったのだ。
激しい体力の消耗から、体はグッタリとし全身に力が入らない。空間移動したせいか呼吸も苦しい。過呼吸と体力の限界で意識も朦朧とし気を失いかけた時、何やらグッと腕を引っ張られた感覚がした。
そこで、一瞬だが意識が浮上し少しだけ状況が掴めた。自分は暴風雨が荒れくれる場所に倒れていたらしい。
…天の所に行けなかったのは悔やまれるが、天と同じ空間にいる事を感じ取るとちょっと失敗したけど成功かな?と、思ったが…
…ヤバい!
なんか、厳つい男に抱き上げられてる気がする。その男はしきりにコウテンに声を掛けるが、意識が遠のいていき聞き取れない。
…せっかく、天と同じ世界に来れたのに…
コイツ、ヤバい奴だったらどうしよう…
…天、どうしよう
会いたいよ…天…
と、コウテンは天を思い一筋の涙を流し、走馬灯の様に前世と前々世の記憶を思い出していた。
前々世は、あの偽天守のせいで神獣にされ遠く離れた国に飛ばされて散々な目に遭った
前世は、畜生どもの住まう穢い世界で紫の光の玉になっていて、周りから存在を認識されない物体となっていた。幸いだったのが、天だけはオレ様の存在を認識していてくれた事
そこでも、天は散々な目に遭い…見ていられないくらい酷いもんだった…本当に…。この時程、自分に実体がない事を悔いた事はなかった
もう、あんな苦しい辛い思いはしなくていい
…いや、本来はする筈じゃなかった!
オレ様が、もっとしっかりしていれば!
本来、天守であるオレ様が、天から離れず側にいてありとあらゆる災いから天を守り幸せにしなきゃなんねーってのに!
様々な障害によって、オレ様達は邪魔され引き離されてきた
…こうなったのも全て、オレ様の力不足…
全部オレ様のせいだ
だけど、今世は違う!
そして、ようやくここまで来た
…長かった、本当に…本当に…っ!
これからは、天守であるオレ様がいる
ずっとずっと離れず側にいる
絶対絶対、うんざりする程幸せでいっぱいにしてやる
そう思ってたのに
…せっかく、ここまで来れたのに…!
…クソッ!!
今度は何なんだよっ!!!